中学生アヒル

薄暗い部屋の中、もつれ合うようにぎこちなく動く二つの影があった。

「どうだ、これでもまだ俺に歯向かえるのかよ?」
「......っ」

まだ未発達な身体を無理矢理開かれて、それでもヒル魔は悲鳴を押し殺す。
柔らかさを遺した左の頬は赤く腫れて、口端から血が滲む。
13年間、同じだけの年月をかけて育まれてきた身体だというのに、なぜこれだけの不均等さが存在するのかと思うと悔しさが涙となって目じりを穢す。

「泣くほどいいのか?」
「ふざっけ...なっ......このっ下手糞っ!!」

ヒル魔を押さえつけて貪り食らう様すらも神々しくて、自分の矮小さが際立ち心が挫けそうになる。
だからヒル魔は余裕だらけのその顔に、わざと侮蔑と嘲りの笑みを投げかけた。
ヒル魔の笑みと入れ替わりに、阿含の口角が下げられる。

「うっぐ...ぁ......っ」

ただでさえ乱暴な阿含の行為に、明らかに嗜虐を目的とした動きが加えられていく。
ヒル魔に結合した部分をわざと見せ付けるように、阿含は組み敷いた身体を持ち上げ深く折り込んだ。
幼さの残る柔らくか細いヒル魔の身体は、阿含の容赦なく傍若無人な様をかろうじて受け入れていく。
その残虐さはどこにでもいる子供が持つそれと何の違いもなく、自分さえよければ後はどうなっても構わないという傲慢さが窺える。
それに対するヒル魔も、引くことを知らないただ突き進むだけの子供でしかなかった。
勝ちも負けも無く、善も悪もそこには存在しない。
ただの一過性の熱を孕んだ幼稚なせめぎ合いが、性行為というおよそ子供には似つかわしくない手段で展開されていく。

「アッ...やっべ。」
「ぅあっ!!あっつぅ......」

先に音をあげたのは阿含の方だった。
別にヒル魔が我慢強かったわけではなく、すでに女との経験を済ませた阿含の身体が射精の感覚を覚えていたからに過ぎない。
それでも男として相手よりも先に行くということは、まだ精神的に幼い阿含にとっても少なからず傷つくことではあった。
そのショックをヒル魔に悟られないように、阿含は薄ら笑いを顔に張り付けてヒル魔をなじる。

「わり、締め付け結構良かったからさ。カスにしては上出来じゃね?この孔。」
「ブッコロスッ!!」
「っ!!」

ヒル魔の足裏が蹴り上げられて、阿含の顎を襲う。
互いの動きに繋がっていた部分が緩み、ヒル魔に差し込まれていた阿含の陰茎が抜ける。
一瞬の判断で阿含は後へのけぞりそのまま尻餅をつくように倒れこみ、ヒル魔の踵は空を蹴った。

「ってぇな!!見ろよっ、抜けちまっただろうが。」
「テメェ...マジ殺す!?」
「吠えんな、カスが。」
「ぐっ......」

先に立ち上がった阿含はヒル魔を見下ろして、力なく投げ出されたヒル魔の太腿を軽く蹴り上げる。
痛みに顔をしかめながらも挑むように睨み上げてくるヒル魔の視線が阿含に突き刺さる。
今まで阿含は神童と騒がれ持て囃されてきた。
嫉妬と羨望の入り混じる卑屈な視線を当然のようにその身に受けてきた阿含にとって、ヒル魔の視線は今までに無く神経を逆なでていく。
強がりでも見せ掛けでもないその瞳が持つ力は、阿含の中に潜む愚かさや弱さを狙って、隙あらばいつでも襲い掛かろうと機会を窺っている。
まだヒル魔を潰せていない事実が阿含の瞳に焦りを浮かべる。
しかしこれ以上の対峙は時期尚早と本能が告げていた。

「......なんか萎えた。それ、自分で何とかしてくれな。」

未だ開放されていないヒル魔の性を指差して阿含は笑う。
それは引き際を知った阿含の精一杯の虚勢であったが、今のヒル魔にはまだ読み取れない。
ヒル魔は周囲に転がる楕円形のボールを1つ手に取り、部屋を出て行く阿含の背中めがけて力任せに投げつけた。
ボールは阿含に当たることなく軌跡を変えて壁にぶつかり転がり落ちる。

「糞っ!!」

忌々しそうに舌打ちするヒル魔の気配を背に感じながら、阿含は振り返ることなく部屋を出て行く。
その顔にいつもの余裕は無く、口の中に広がる苦味に顔をしかめる。
阿含は初めての敗北をそれと知らず味わっていた。
今までもこれからも、自分の思い通りにならなかった人間はきっとヒル魔だけだろう。
自分はこんな味を知ってはいけない人間なのだ、ヒル魔とはもう関わるなと何かが警鐘を鳴らす。
頭の奥で響く忠告に心を閉ざし、いつかまた必ず来るヒル魔との決着の日まで、これから出会う全ての人間をねじ伏せることを阿含は誓う。



一人部屋に残されたヒル魔は、身体の痛みと脳内で感じる神経が焼き切れるかと思うくらいの熱に意識を集中させて、呼び覚まされかけたオスを宥めていく。
放出する快楽に拙いことも手伝って、ヒル魔の性欲はどんどんとその気配を潜める。
幼い中にも冷静な精神を宿したヒル魔にとって、それはとても簡単なことだった。
しかし残念なことに、自らの性が静まったところで、身の内に感じる阿含の欲望が消え去るわけではなかった。
ベタつき流れ出る他人の体液にヒル魔は吐き気を覚える。
今回の件について自らの中で負けを認めるしかないヒル魔は、同時に阿含が手の届かない人間ではないことを無意識に感じ取っていた。

「なっさけねぇ.....、まだだ、まだまだ足りねぇ。」

自らのやるべきことを知ったヒル魔は、痛めつけられた身体をおざなりに身づくろうと歯を食いしばって立ち上がる。
いつか神に追いつき、神殺しの名をその背に負うことができるのであれば、悪魔に魂を売ることも厭わない。
今日という日の屈辱を生贄に捧げ、悪魔そのものになって阿含を食い殺す。
ヒル魔はその一瞬に思いを馳せながら、背筋の凍るような美しさで笑った。