ごんっ!!
小気味の良いほど盛大な音を出してムサシは無言でしゃがみこむ。
「………ダセェ…………」
呆れた声でヒル魔が呟く。
「お前が犬小屋なんか作らせるからだろうがっ!!」
「なんかとはなんだっ!!ケルをバカにすんじゃねぇっ!!」
そう言ってケルベロスの首にしがみつくヒル魔を見ていると、ムサシはどうしようもなく腹が立ってくる。
犬に抱きつくぐらいなら自分に抱きつけと咽喉元まで出かかったバカを無理やりに押し込める。
今はまだ日も高く、周りには在校生の姿もちらつく。
こんな所で二人の関係をばらしてみるのも面白そうだったが、それ以上に共有する2人だけの秘密を無くしたくなかったのでムサシは諦める。
「後で覚えてろっ!!」
「………っ!?………うるせぇ、糞ジジィ」
その言葉に含まれる意味が伝わったのか、少し頬を赤くしてケルベロスに顔をうずめるヒル魔にまた腹が立つ。
クゥンとしおらしく鳴いて、ヒル魔の頬を舐めるケルベロスには更に腹が立つ。
「犬にまで色気振りまきやがって!!……」
製作中の犬小屋の中で、ムサシのぼやきは虚しく消える。
「おい、まだ終わんねぇのかよ?」
「…………もう終わる。」
「ふぅん。」
犬小屋にしては大層立派な作りの小さな建物をヒル魔が覗きこむ。
まるで無防備なその唇にムサシは犬小屋の中から掠めるようなキスをする。
「………っ!!………余計な事考えずにさっさと仕上げやがれっ!!糞っ!!」
真っ赤になったヒル魔の顔を見て、ムサシはケルベロスに一瞥くれながら、心の中で『お前にこんな顔させられるか?』とせせら笑う。
ケルベロスのほうは人間の恋路になんて興味も食欲も沸かず、迷惑だといわんばかりに大きなあくびを一つする。
「はぁ〜………終わったぞ。」
「じゃぁ、さっさと出てきやがれっ!!」
先ほどの不意打ちをよほど怒っているのか、ヒル魔はやけにムサシをせかしてくる。
やれやれと、ため息混じりに呟きながら、犬小屋から顔を出したときだった。
ちゅっ。
軽くおでこに触れる唇の感触に、一瞬何が起こったのかと目を丸くするムサシの視界の先で、今日一番のゆでだこヒルマが睨みつける。
「てめぇ、さっきデコ打っただろうが…………って、なにニヤけてがるっ!!」
ムサシはたまらず笑い出す。
犬にさえも嫉妬する自分がおかしくて。
自分に向けられるヒル魔の気持ちが嬉しくて。
こんな簡単な事で機嫌の直る自分の単純さが格好悪くて。
「なんだよっ!!もう知るかっ!!!糞ッ、糞ッ!!!」
拗ねたように怒って帰ろうとするヒル魔をムサシが慌てて追いかける。
きっと、たぶん追いついてもこんな所で抱きしめたりは出来ない。
残念だけれど、今は唇の触れ合う記憶だけで我慢する。
2人の時間はもうすぐやってくるから、それまでは胸が痒くなるようなこの甘くくすぐったい気持ちで我慢する。
終