陳腐GAME

最近ヒル魔の周りが騒々しくて、そのあまりにそぐわない雰囲気にムサシは片眉を上げる。
ずっと自分の帰りだけを待ちわびていたはずのヒル魔が、いつの頃からかムサシの視界から消えていた。
今も目に映るのは見慣れない誰かと年相応にはしゃぎ合うヒル魔の姿。
そんな姿はムサシと栗田の3人でいるときにだけ見せていたはずなのに。
突き放したのはムサシのほうで、けれども置いていったのはヒル魔のほう。
突き放されたヒル魔は必ず自分に縋ってくるものとばかり思っていた事に腹が立つ。
ヒル魔に置いていかれるなんてと柄にもなく落ち込んで胸の奥がどす黒く変わっていく。
立っている場所は違っても、立っている高さは同じだと思い込んでいたのは自分だけなのだろうかとムサシは焦燥感に捕らわれる。
帰宅時間などとうに過ぎた薄暗い部室へとムサシの足が勝手に向かってしまう。

「っ!?」
「おう、糞ジジイ。こんなところで何してやがる?」
「……………。」

明かりのない暗い部屋では顔の判別もままならず、それでも悔しいことにムサシは声と雰囲気だけで影の主が誰だかわかってしまう。
まさかヒル魔がいるなんてと驚く顔すら出来ないでいる自分にムサシは困惑していた。

「何黙っていやがる?……情けねぇ面だな。」
「……………。」

ムサシの変わらない無表情の奥を唯一見破るヒル魔の目が今はうっとおしくて思わず顔を背けてしまう。

「テメェはほんとに判りやすいな。オレに仲間が増えて急に寂しくなったか、ムサシ?」
「……俺が望んだことだ。」
「ケケッ、強がりジジイ。」

図星を刺されてムサシは少しだけコブシを握る。
ムサシのわずかな動きにもヒル魔は目を細めて反応するから、ムサシは心の奥を見透かされそうで居た堪れなくなる。
そんなムサシの目前にヒル魔は音もなく近寄って、その細く長い腕をムサシの首に絡めてにやりと笑う。
その笑い顔を見てムサシは全てを理解した。

「…っ!!おまえっ……まさか全部わざとか?」
「はっ、テメェの気持ちなんていくらでも転がしてやるよ。それで60ヤードマグナムがこの腕に戻ってくるんならな?」

たちの悪い化け物に捕らわれたんだと今更ながらに気付く。
ただの仲間であったなら、きっと見向きもせずに離れていけたのに、なぜただの仲間で我慢できなかったのかとムサシは激しく自分を問いただしてみたくなる。

「仲間はそれなりに集まっちゃいるが、テメェは特別だ。」
「……相変わらずウソとはったりだけは一級品だな。」
「ふん、テメェのそういうところも嫌いじゃないぜ?」

表情を変えずに抵抗するムサシの顔をヒル魔は面白そうに覗き込んでくる。
この勝負は先に目を逸らしたほうが負けだとでもいうようにお互いが睨み合い続ける。

「ヒル魔、俺のことはいい加減諦めろ。」
「はぁん、諦められるのか?テメェはオレのこと諦めきる自信があんのかよ。」
「もともとなんとも思っちゃいない。」
「下手な嘘だな。」

ヒル魔の瞳が妖しく揺らいでムサシの気持ちをかき乱す。
諦める気など更々無いのはお互い様で、けれど今二人を取り巻く状況は簡単に自由を与えてはくれない。
だから現状があるというのにヒル魔はそれを全く受け入れようとしてくれない。
17歳のムサシには、欲しいものを欲しいと言って駄々をこねるだけの正直さは薄れ掛け、何かしらの理由をつけては自分も周囲も納得させようと画策する。
それなのにヒル魔は全ての行為を正当化させ強引に流れを変えることをさも当然のように行ってしまう。
まんまと罠にかかってしまうのはヒル魔の狡猾さ故なのか、それともムサシが自ら進んで入ったのか、あるいはそのどちらでもあるのだろうか。

「オレのことを他の誰かに盗られたくないんなら、真横でしっかり?まえておきやがれっ!!」
「お前は誰のものでもないだろう?この俺のものでさえない。」
「さぁ、それはどうかねぇ?言っただろ、テメェは特別だ。」

ヒル魔の言葉など嘘ばかりだと思うのに信じてしまう。
頭では判っているのに心が身体がヒル魔に従いたがる。
きっと目の前の男はこれからもずっとこうやって自分の気持ちを弄んでヒル魔のいいように利用するに違いない。
そのたびにムサシはこの身を棄てて、ただヒル魔のためだけに鬼と化す莫迦な自分を想像しながら、今はこの細い腰へと腕を回す。
ヒル魔がムサシの動きをその身に感じてひっそりと笑った。