ゴッコ遊び

1.忠告ごっこ

「ヒル魔、お前あんまり身体のライン出すような服着るのやめろ!」
「いきなりやってきて真顔で何言いやがる?この糞ジジィ。」

いつもの様にPCを打つ手は止めずに、冷たくムサシを突き放すヒル魔の姿にはらはらの栗田です。

「あのっ、でもね?きっとムサシも理由があっていってることだよね?聞いてあげようよ、ヒル魔ぁ!」
「……………わかりやすく一瞬で言ってみろ。糞ヒゲ。」
「お前が痴漢に狙われるかっ………」

ムサシの言葉は最後まで続けられる事も無く、そこらへんにあった銃器類で地面にたたきつけられます。

「そんな事をしようと考えるのはお前だけだ。この糞エロっ!!」
「僕1日限定20個の特製ケーキ買いに行くの忘れてたよ。じゃあ、ヒル魔また明日。」
「っ痛ぇ………、栗田に至ってはもうシカトなのか………。ヒル魔! もう俺は知らんからなっ!!覚悟しとけバカヤロー!!!!」

叫びながら走り去っていくムサシに、たった一言づつコメントをくれる優しい二人でした。

「………あほだな。」
「……あほだね。」

この時は涼しい顔をしていたヒル魔でしたが、後日とんでもない目に合う事にあろうとは、この時誰が想像できたでしょうか。


2.痴漢ごっこ

ムサシが喚いてから数日後の事でした。
ムサシの喚いた事などすっかり忘れて電車に一人乗るヒル魔です。
運悪く電車内は結構込んでいて、ヒル魔は電車内の熱気と臭気に顔を曇らせます。
それでも乗ってしまったものは仕方が無いと出来るだけ隅のほうへ移動し、他人の息を吸わなくてもすむように壁に向かって立ちました。
1駅、2駅となんの変化も無く電車は進んでいきます。
ちょうど3駅目を通り過ぎた辺りから異変が起こりました。

(…………っ?やけにケツのほうがごそごそしやがる。)

満員電車の中にいるので慣れない人間が身動き取れずにもがいているのかと思い、さして気にしないヒル魔でした。
しかし、さすがにその手がハッキリとした目的を持って動いているのだと気付くのにさして時間はかかりませんでした。

(………糞ッ、男相手にどこの変態だっ!!絶対殺す!!!)

心の中で叫んで見ても、場所は満員電車。振り向けるわけも無く身動きもいぜん取れないままです。
助けを呼ぼうにも女の子ならいざ知らず、どんなに細くて美人でもヒル魔はアメフトをやっているような男の子です。
おいそれと助けを呼べるものではありません。
この犯人を手帳に加えて奴隷にしてやろうと欲を出したのもまずかったようです。
ヒル魔が何の抵抗も見せない事に気を良くしたのか、今まで遠慮しがちにお尻ばかり撫でていた手が移動し始めます。
ゆっくりと太腿をなで上げる感触に気色悪さのあまり肌が粟立ちます。
失礼な手は太腿とお尻を行ったり来たりしてその形を確かめている様です。

(…………絶対捕まえて奴隷だっ!!)

不意にお尻の割れ始めのあたりで手が止まり、急に尾骨の先を押し始めます。

(っ!!何しやがる―!!)

何度も押されるうちに少しづつそこから背骨にわずかな感覚が這い上がってくるようになってしまいました。
この感触から逃げようと少し身を捩った瞬間、その手がするりと前にまわり、今度は股間部分を撫で上げていきます。

(………なっ!!………)
「…………っくぅ………」

周りに聞こえない程度に息を吐き、高まりそうになる体の熱を逃がそうと努力してみます。
そんなヒル魔の努力も空しく、手は大胆にもチャックをこじ開けその中へと侵入してきたのです。

「っはぁっ!!………うぐっ」

驚いて思わず声を上げてしまったヒル魔に何人かが視線を送ります。
慌てて口をつぐみますが、股間で行なわれているいたずらは一向にやむ気配がありません。

(こんな事ならムサシのいう事を聞いておけばよかった!!)
「………………………っふ・……」

後悔先にたたずです。
手の動きはどんどんとエスカレートしていきます。
悔しい事に正直な思春期のヒル魔分身はその手がくれる贈り物を喜んで受け取っている様でした。

それと反対にヒル魔の心はあまりの気持ち悪さに胃のほうから込みあがってくるモノを押さえるのに精一杯です。

(もうっこれ以上は…………吐くっ!!)
「………糞ッ…………ム…サシィ………」

いつもは意地を張って呼ぶ事の無い男の名前を呼んだ瞬間、電車のドアが開き、誰かに腕を強く掴まれ外へ引きずり出されます。


3.説教ごっこ


「あんな所で誰かもわからん相手にいじられて何気持ち良さそうにしてるんだっ!!」
「っ!!………ム…サシ?」

痛いほどに腕をつかんで放さない男は怒り心頭といった表情でヒル魔を睨みつけてきます。

「誰かさんは言ってたよなぁ、痴漢なんてあるわけ無いって?じゃあ今のは何なんだよ!!」
「………うるさいっ!!しょうがないだろうがっ!!」
「しょうがないでお前は身体を触らせるのかっ!!」

悔しいけれどもムサシの言うとおりなのでヒル魔は珍しく何も言い返せません。

「何か、言う事はないのか?」
「………悪かった。」
「はぁ?よく聞こえん。」
「………だから、悪かった。」
「もう1度っ!!」
「っ!!………お前のいう通りだった!!悪かったっ!!!……糞っ」

そう言うと、ヒル魔はバツが悪そうにうつむくのでした。


4.尋問ごっこ


近くにムサシがいるだけでさっきの吐き気は嘘の様に消えていました。
それでもまだ動く元気は無く、ぐったりとベンチに座りこんで重い口を動かします。

「…………それにしてもムサシ、いつの間に同じのに乗ってたんだ?」
「はっ?いやっそれは、あれだっ……お前が心配でなぁ………」
「じゃあ何で最初に助けなかったんだよ!!どのくらい俺が我慢したと思ってるんだっ!!」

恨みがましそうに見つめてくるヒル魔から目をそらし、明後日の方角を見るムサシに何かを嗅ぎ取ったヒル魔は手を変えて目を潤ませながらさらに質問を重ねていきます。

「……………それとも俺が他の奴に触られても平気だったのか?」
「なっんなわけないだろう!!誰が触らせるか!!」
「じゃぁ、さっきの奴は?」
「あれは俺だっ!!………って、あれ?」

ヒル魔の瞳が切れ上がりその奥に怒りの炎が見え隠れします。

「ほっほう…………。あれはお前だったのか………」
「いやっ、そうじゃなくてだなァ……ほら、あれだっあれ……」
「……………ふざけんなよ?やっぱりあんな事すんのお前しかいねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「俺はお前の危機管理を心配して身をもってだなぁっ!!」
「うるさいっ、死ねっ!!むしろ殺すっ!!!こんの糞変態ィィっ!!!」

和やかな人気の無い駅の構内に響き渡る銃声を聞いたとか聞かないとか、死人が出たとか出ないとかいつものごとくに闇から闇へと葬られたのでした。



終わり