夢戯

何も無い部屋の中、ヒル魔は一人革張りの大きな椅子に座っている。
その椅子はヒル魔の身体を深く包み込み、その座り心地の良さはヒル魔をまどろみへと誘う。
椅子に移ったヒル魔の体温は、それ以上の熱を伴って背後から暖かさを返してくる。

「......んっ。」

ほんの少しの息苦しさと同じ姿勢でいることの苦痛に、ヒル魔は身を捩じらせようとした。
しかしあまりに深く沈み込みすぎた身体は僅かな身動きさえも封じられ、尚も椅子に飲み込まれていく。
この異常な状況においても、椅子がヒル魔に与える感覚はとても優しく心地良かった。
あまりの安寧感に、ヒル魔はこのまま意識を完全に手放してしまいそうになる。
身体は未だ椅子に包まれ、いびつな圧迫感がヒル魔をゆったりと襲う。
つい眠ってしまいそうな感覚がヒル魔の意識を混濁させていた。
そんな中、正常な思考を剥ぎ取られ、ただ睡眠を貪ろうとするヒル魔の胸先にジワリと小さな灯がともった。

「......ぅあっ...ん」

誰も触っていないはずの胸の飾りがツンと立ち上がり、とても敏感に衣服のざらつきを伝えてくる。
ヒル魔は一体何事かと目を開け確かめようとするが重すぎる瞼は上がらず、眠気がいっそう強くなる。
いつの間にか目に見えない手がヒル魔の身体を這いずり回り、その感触に身体が震えた。
しかし相変わらずヒル魔の全身は椅子に包まれ、逃げ出そうにも強烈な睡魔のせいで身体の自由が利かない。

「.....あっ...ふ......ん、やっぁ」

胸先に感じるむず痒い感覚が、ヒル魔の口から吐息を搾り出していく。
敏感になった小さな赤い粒は、まるで誰かに弄られているかのように二つともがその形を変える。
ヒル魔はその度に、椅子に座ったまま身動きも取れず嬌声をあげた。

「ひゃ、ん......ぅ?」

不意に胸先の感触が1つ減り、替わりに何かがヒル魔の腹を伝う。
軽く撫でられるような感覚に肌が粟立ち、胸で感じたものとは違う快感が生まれてくる。
産毛のように柔らかな浅い茂みを掻き分けられる感触がとても気持ちよくて、ヒル魔はタメ息をついた。

「......ふ、ぅ...んっく......ん.......」

その奥にある感覚をすでに知っている身体は期待に震えてしまう。
きっと先ほどとは比べ物にならないような気持ち良さが今に自分を飲み込んでいくことをヒル魔は望んでいた。
それなのに何故かいつまで待ってもヒル魔が予想していた感覚は訪れず、ただ梳くように茂みが流され続ける。
さわさわと揺れる茂みから伝わるくすぐったさに、ヒル魔は眉を顰めて小さく声を上げた。

「......?...ぅ、や...ぁ」

欲しいものが手に入らないことが腹立たしい。
自分でなんとかしようにも、眠気は依然強くヒル魔を支配していて、身体が言うことを聞いてくれない。
椅子に埋もれたまま僅かな隙間で背を反らせ、腰を浮かしては快楽を追いかける。
普段であればありえないほどに餓えたヒル魔が痴態を晒している。
理性も何もかもがあやふやになってしまった今のヒル魔に在るのは、睡眠欲求と快楽欲求だけだった。

「うっ、っく...ふ......ぁ......?」

不意に体中から全ての感触が取り払われ、ヒル魔は身体の疼きを抱えたまま切なげに身悶える。
じんわりと全身に沁み込んでいく暖かさのためか、満足できない身体とは対照的に頭の中は靄がかかったように思考が薄れていく。
このまま眠りにつけば楽になるかもと意識を手放しかけた時、鋭い快感がヒル魔を襲った。

「ひあっ!!」

ヒル魔自身にかかる圧迫とその根元を揉みしだかれる感覚に、ヒル魔は悲鳴を上げて身体をこわばらせる。
あまりに性急なその刺激にヒル魔は思わずのけぞり、頭の上にある椅子の背を握り締めた。

「いっつ...おいっヒル魔!!力入れすぎだっ、手、離せ!!」
「......ぅあ?」

突然耳元で叫ばれた聞き覚えのある声に、ヒル魔の睡魔が吹き飛ばされる。
革張りの感触だとばかり思っていたヒル魔の手には、硬い毛束が握り締められていた。
さっきまでどんなに努力してもあげられなかった重い瞼は、今嘘のように持ち上がっている。
現状況の判断がまったくできずに、ヒル魔は目をぱちくりと瞬かせた。

「なん.....だ?...ム、サシ??」
「バカヤロっ!寝ぼけてんのか、早く髪離せよ。」

再度うるさく言われても、手はそのままにヒル魔は自分の身体に視線を走らせた。
背中に感じる触れ慣れたムサシの体と、そこにすっぽりと収まるように座り込んだ姿勢の自分。
その身体はすでに体幹部分が剥かれ、あられもない姿を晒している。
外気に晒された乳首は赤く尖り、ヒル魔自身は未だにムサシの手に握られていた。
少し頭がはっきりしてきたのか、さっきまでの出来事が夢と現実の混合したものであったことに気が付く。

「.........おい、この糞ジジイ......どういうことだ?」
「いや、それはそのアレだ。」
「あ゛ぁ?」
「人に凭れ掛かって無防備な寝顔晒すお前が悪い。思いっきり誘ってるだろうがっ!!」

ムサシの言い訳に、今の今まで知らずに悪戯されていたヒル魔の顔が上向き表情を冷たく変える。
ヒル魔は逆立ったムサシの髪をまだ握り締めている手に力を込め、めいいっぱい引き摺り下ろした。

「イダダダダダッ!!」
「うるせぇっ!?この糞変態ジジイ!!」
「なっ...んぐっ」

ムサシが何かを言う前に、ヒル魔はその口に齧り付くようなキスをする。
そして存分にムサシの口腔内を犯しきってから、自分勝手に引き剥がした。

「テメェへのお仕置きはまた後だ。今は責任とって最後までこっちの面倒見やがれっ、この糞トサカ!」
「.........やっぱり誘ってたんじゃねぇか。」
「どっかの間抜けのせいでこっちは欲求不満になってんだっ。とっとと満足させやがれっ!?」
「さっきまでの可愛さはどこに言ったんだ?ったく......」

ムサシはため息混じりに呟くと、ヒル魔の唇へとまた顔を近づけてくる。
物足りなさそうなムサシの口元を見つめながら、ヒル魔はようやく笑った。