祝詞

お誕生日おめでとう
生まれてきてくれてありがとう
貴方の生に祝福を
聖誕祭を始めよう
お誕生日おめでとう

ソファからヒル魔が立ちあがった瞬間、いきなり背後からムサシがしがみついてくる。
いつものふざけ事かと思い放っておくと更に強く抱きしめられる。
そこから何かあるのかというと何も無く、ヒル魔はただ抱きしめられ続ける。

「……どうかしたか?糞ジジイ。」
「急にお前の誕生日を祝いたくなった。」
「はぁ?俺の誕生日は今日じゃないぞ、呆けんな。」

ムサシにもそんな事はわかっているのだが、ヒル魔から誕生日を教えてもらった記憶が無く、いまさら誕生日がいつかなんて聞けるわけもないので無言でもっと抱きしめる。

「………苦しい……糞抱っこジジイ、いいかげん離れろ。」
「いやだ。」
「蹴るぞ。」
「この体勢じゃ無理だろ?」

そう言ってムサシが耳元で笑う。
そのくすぐったさに顔をしかめながらヒル魔は体重をムサシに預けた。
背中からムサシの体温と息遣いが伝わる。腕に込められた力はいまだに強く、抱擁というよりは拘束に近い。
そのままムサシに促されて、ついさっき離れたばかりのソファに二人で座りこむ。
いつまでこうしているつもりなのかとヒル魔は思うのだが、ムサシが一向に離そうとしないので、たまにはこういうのも良いかと抵抗はしなかった。

「………ムサシ、なんかしゃべれ。眠くなりそうだ。」
「寝たら良いだろう。」
「寝相悪くて暴れたりしても知らねぇぞ。」
「かまわん。」
「………チッ……好きにしやがれ。」

ヒル魔の寝相が悪かった事なんて今まで一度も無かったのだが、余計な事を言って離れられでもしたらと思うと、自然と口が重くなる。
暫らくすると、ムサシの腕の中から規則正しい呼吸が聞こえてきて、本当に寝てしまったかと苦笑する。

「………ヒル魔?」
「……………」

ムサシの問いかけに答えるのは寝息だけだった。
ムサシは少し腕の力を緩めて柔らかくヒル魔を包みこむ。
ヒル魔はいつも全部を一人で抱えこんで弱みを見せない。
だから人一倍疲れも溜まるのだろうなと無防備な寝顔を覗きこみながら、ムサシはヒル魔のために出来る事を思案する。
しかし今のムサシでは何も思い浮かばないので思考を中断させた。

「俺のためだけに生まれてきたら良かったのにな。」

それなら全力で何もかもから守ってやるのにと、ムサシはヒル魔の髪に優しくキスをする。

「お前に逢えただけでも贅沢なのにな。」

さっきの言葉は、一生懸命ひた走るヒル魔に失礼だったかと思い直して、謝罪の変わりに今度は耳先へ軽く口付ける。

「お前がいるだけで十分だな。」

その存在を確かめたくて、ヒル魔を起こさないようにそっと唇に唇で触れる。
いつかヒル魔の誕生日がわかった時には、またこうして眠る場所を与えてやろうとムサシは思った。
そして、ヒル魔の誕生をムサシがどんなに感謝しているか、ヒル魔の存在がどれだけムサシを幸せにしているのか、今は照れくさすぎてムサシがヒル魔に言えないでいるたくさんの言葉を打ち明けようと、ヒル魔の全てに誓うのであった。