好きになった人が、たまたま同性だっただけなんて口に出来るほど馬鹿じゃない。
そんな言葉がまかり通る世の中ならば、きっともっとマシな世界が回っているはずだから。
ヒル魔はそんな事を考えながら、足元に散乱した成人男性向け雑誌を踏みつける。
いつの頃からかムサシの部屋に増えていった男と女の卑猥な内容物にげんなりする。
ムサシが異常なのではなくて、異常と呼ばれるのなら間違い無く自分だろうなと思う。
そしてこういった物が増えていった時期と自分達の関係が始まった時期との合致に吐き気を覚える。
先に誘ったのはいったいどちらからだったのだろうか。
「いいかげん片付けろ、糞エロガッパ……」
文句を言ってみたところで何かが変わるわけでもなく、何も答えないムサシの後ろで仕方なくヒル魔は苦々しい表情を隠して片付けを始める。
2人の関係がいかに大きな過ちであるかと主張を続ける正常な本を見ていると、無償に腹が立って投げるように始末していく。
そんなヒル魔の腰にムサシが手を回してくるので、その手をぴしゃりと撥ね付けて嫌味が口を突く。
「今日、テメェとはやりたくない。」
「なんで?」
「生理中だ。」
「そういセリフはその真っ平らな胸が膨らみ出したら言えよ。」
ムサシの機転の利いた切り返しに返す言葉を捜してみるが見つからない。
ほんの少しの油断がムサシにチャンスを与え、ヒル魔を組み敷かせる。
「でも生理って事は生OKか?」
「テメェが生じゃなかった事なんて記憶に無いけどなっ、もういいから離せ!!」
冗談交じりにニヤついたムサシの顔が近づくので、ヒル魔はわざと唇の触れ合う直前で顔を逸らせる。
今はキスすらしたくない。
なんとかムサシの下から這い出そうともがくヒル魔の抵抗も空しくムサシは慣れた手つきで衣服を剥ぎ取っていく。
勿論、ヒル魔が本気で抵抗していたなら簡単にいくわけは無かったのだが、今だかつてヒル魔が本気で抵抗してみせた事など一度も無い。
「痛っ!!てめッ……いきなり指入れんなっ!!」
「なんだ?ヒル魔は女みたいに胸揉んだり尻撫でたり、舐めたり濡らしたりして欲しいのか?」
「っ!?…………ふざっけんな!!……うぁっ…」
なんの準備もせずにいきなり捩じ込まれた指によってヒル魔は無理矢理その入り口を拡げられる。
ピッという嫌な音を感触で感じて身を竦める。
直後に感じた熱い痛みから、たぶん切れたなと予想する。
ヒル魔の予想を肯定するかのようにムサシの声が耳元で囁かれた。
「血出てるな、本当に生理みたいだ。」
「もっ……やめろ!!……このっ糞変態!!………んッ…っ痛ゥ……」
ムサシは滲んでくる血を潤滑油代わりに内壁へと塗りこんでくる。
その動きに快楽を感じそうになって、ヒル魔は必死で痛みに集中する。
そんなヒル魔の気持ちを知ってか知らずかムサシは自分勝手に事を押し進めていく。
「うあぁっ!!………くっう……抜けっ……糞っ!!」
「あー、きっつう………。でも血でヌルついて女みたいだなっ……」
わずかにほぐされただけの穴から指が引きぬかれ、替わりにムサシの欲望が押し入ってくる。
指とは比べ物にならない程の圧迫感と広がりが傷を深くし、出血は更に増えてきたようであった。
出血のせいだと判っていても、ムサシの動きに合わせて耳に響く濡れた淫猥な音に耳まで犯され本当に女に堕とされたような気分になる。
もし自分が女だったらどうなのだろうと嫌な考えばかりが浮かんできて、ヒル魔は頭を振って忘れようと努力する。
「んっ…はぁ……うぅっ………」
「っ!!ふぅ、やっぱり生はいいな。」
「んぁっ……終わった、ら…早っく抜けっ!!痛っ…ぃ……」
ムサシはさっさと一人で終わらせ何事も無かったかのように振舞うと、先程ヒル魔が片付けた本の山に手を伸ばしてまた散乱させ始める。
そんなムサシの姿に怒る元気もなく、体の痛みが引くのをただ大人しく待つだけの自分が情けなくて、痛む身体に鞭打ちその場を離れてバスルームへと向かう。
「ヒル魔の奴、人の気も知らないで。『糞』ってのはこっちのセリフだ……」
ヒル魔がいなくなったのを確認してからムサシは小さく呟き、手に持っていた本を投げ捨てる。
今の関係が普通では無いのはムサシにだってわかっている。
だからわざと突き放してみたり、逃げ出してしまうほどに酷い事もする。
何度も何度も自分から引き剥がそうとし精一杯の努力を怠らない。
それでも自分の所に戻ってくるヒル魔を嬉しく思いながらも優しくは出来ない。
何より困った事は、自ら離れる事などムサシには出来ようも無いくらいに自分の心を捉えて離さないヒル魔の存在。
それでもヒル魔の為にいつでも心置きなく出ていける準備だけはしておいてやろうと心に決めて、読みたくもない馬鹿で低俗な雑誌を買い漁る。
『もしもこの世がまともでなかったならば、今すぐにでも全てを明かして縋りつくのに』
ムサシとヒル魔は別々の場所で背きあいながら、それと知らずに心を重ねる。
終