恋愛シミュレーション 1

≪新商品!!≫

貴方も育ててみませんか?子供型人工生命体を貴方好みの擬似人間へと進化させることが出来ます。全く新しい形の育成シュミレーションゲーム!
成長すれば言葉を理解し感情も芽生えます。御購入された貴方には愛情を持って育てていただけますようお願い申し上げます。


<飼育はじめ>

けたたましくなるインターホンに起こされて、ムサシは不機嫌な顔を隠さずドアを開けた。
目の前には更に不機嫌な女の顔。

「ちょっと厳ちゃん!!もうっなにこれ!!こんなのいらないから返すッ!!」

そう言ってムサシの目の前に突き出されたのは片頬を腫らして目を潤ませながら、それでも泣かずにいる小さな子供の形をした育成ペットだった。
たしか2,3日前に目の前の女にせがまれて買ってやったもののはずだった。

「………何で?」
「だってこの子なんにも食べないし言うこときかなくてっ!しかもいきなり何してきたと思う?アタシに襲いかかってきたのよ?人の口噛みつこうとしたり胸触ったりっ!!もうっ信じられないっ!!」
「それで殴ったのか?こんな小さいのを?母親と間違われたんじゃねぇのか?」
「…っ……だって……これ人間じゃないし……」
「もういい、おまえ帰れ。それこっちで貰う。」
「ちょっと!!…厳ちゃっ………」

好き勝手に喚く黄色い声から逃れたくてムサシはドアを閉める。
女はまだ外で何かを叫んでいたが、ドアを何回か蹴ってやったら静かになった。

「あ〜、やっぱあの女めんどくせぇ。もう切るか。………ん?」

足元にかすかなツッパリを覚えて視線を落とすと、そこにいる小さな子供がムサシを見上げていた。
そういえば勢いで連れこんだっけと思い出し、ムサシは子供を抱き上げた。

「ひでぇな、その顔。唾付けときゃ治るか?」

ムサシはそう言って子供の腫れた頬をひと舐めした。
その行動に驚いた様子で子供の瞳が見開かれるからムサシは苦笑してしまう。

「別に取って食おうなんて思っちゃいねぇよ。お前の事どうするか考えたいんだが、とりあえずもう一眠りさせてくれ」

ムサシはとりあえず子供を居間においてそのまま寝室へと入っていった。


<飼育注意>

ムサシが眠りに落ちてどのくらい経った頃か、何となく下腹部がくすぐったくなってきて思わず身じろいだ。
その途端にくすぐったさは消え去ってまた不快眠りが訪れようとした瞬間、今度は下半身に生暖かく湿った感触が伝わってきてムサシはその気持ち良さにへらへらと笑う。
しかしこの小さな快感はいつまでたっても大きくはならず、時間が経つにつれて中途半端な快感は不快へと変わり、意識が覚醒へと昇りはじめた。

「………ンン?……うわっ!何やってんだ、おまえっ!!」

ムサシの目に映った物は、下半身剥き出しの自分とそれに涎を付ける小さな子供の姿だった。
ムサシは子供を急いで引き剥がしてズボンを引き上げる。

「なんだ、腹でも減ってるのか?………?」

ムサシの声など聞えないかのように子供は執拗に自分の下半身へと届かぬ手を伸ばしている。
そう言えばあの女はなんて言ってこの子供を置いていったんだっけとムサシは記憶を辿る。
女の言葉はあながち勘違いや嘘ではなかったのかと、ムサシは子供を見つめる。

「まさかな。………とにかくコイツを買った店に行ってみるか。」

返品するにせよこれから育ててみるにせよ、兎に角まずはそこからだとムサシは人工ペット専門店へと向かった。


<飼育マニュアル>

「申し訳ございません!!」

子供を見るなり店員はムサシに頭を下げて謝り続けた。
わけがわからず立ち尽くすムサシに店員は話し始めた。
ムサシが買っていったこの商品は、実は一度返品された物であった。
どうやら初めの買い主は未成年で、この子供を如何わしい用途に使う為に買ったのだが、それが親にばれて返品されてきたらしい。

「じゃぁ、コイツは本当に人を襲うのか?」
「襲うって……まぁ、本商品にとってはただの食事のつもりでしかないようなので………」
「食事ィ?」
「このタイプの餌は買い主が与える物がインプットされる様になっておりまして……」
「要はそういう行為に使われたってことか?そんでそれが食事だって覚えこんだってのか?」
「はぁ………」

ムサシは腕の中でおとなしくしている子供に目をやった。
こんな子供に何てことをと元の買い主に少し腹が立ってきた。
そんなムサシの様子に気を配るでもなく、店員が謝りながら言葉を続けた。

「本当に申し訳ございません。こちらは返品を受け付けさせていただきますのでこちらでお手続きを…」
「返品?返品したらコイツはどうなるんだ?」
「はぁ、もうこの場合は廃棄処分になるかと。」
「…………食べ物の設定は直せないのか?」
「は?あ、いえ。元々順応能力の高いタイプの商品なので根気良く続けていけばどうにかなるとは思いますが?」
「じゃぁ、いい。このまま連れて帰る。」
「はい?お客様?」

店員の言葉に耳を貸さずムサシは子供を連れ帰ることにした。
女が欲しいといったから買い与えた物ではあったが、今はどこから見ても人間の子供にしか見えないこの姿にムサシは何となく情が沸いた。
どうせあの女はもう来ないだろうし、暫らくは女なんて欲しくも無かったから、こんなペットを飼ってみるのも悪くないとムサシは自分に言い訳しながら子供を小脇に抱えて家路へと急いだ。


<躾>

「お前………名前無いと不便だな。そうだな〜。人の腹に吸いついてヒルみたいに離れなかったからヒルマで良いか?」

きょとんとした子供の顔を覗き込んでムサシはヒルマヒルマと連呼する。
それから数日間、ムサシはヒルマの身の回りの世話に意外なほど没頭していった。
中でも食事に関しては非常に手を焼いていた。
ヒルマは食物を食べないわけではないのだが、あまり好まず気を抜くとムサシの下半身に手を伸ばしてくる。
その度にムサシはヒルマを掴まえてコンコンと説教していった。

「いいか?こんなことは好きな人とだけするもんだ。食い物はこっち!!」
「う〜………」

口を尖らして食べ物を拒否するヒルマにムサシは仕方なくいつもの手を使う。

「ほれっ」
「あ〜……んんっ」

ムサシは自分の口にヒルマを飛びつかせ、ヒルマが夢中になって武蔵の口腔を舐めまわす隙をついて口に含んだ肉のかけらを押しこんでやる。
そうしてムサシからの口移しでやっと食べ物を摂取するヒルマだった。
一体前の買い主にどんな育てられ方をしたのかとムサシは頭を悩ませながらも、後もう少し成長して言葉がわかり出したらきちんとしつけてやろうと心に決める。
そんなムサシの心を知りもせず、ヒルマは無邪気にムサシの唇をねだる。

「俺はオマエの調味料か?…………はぁ。」

ムサシはため息をつきながらまた1つヒルマに口移しで食べ物を与える。
幸せそうに口を動かして食べるヒルマを見ていると、ムサシの心もむず痒い感じがして思わず頬が緩んでしまう。


<成長物語>

ムサシの努力の甲斐あって、ヒルマの成長は著しく日に日に大きくなっていった。
初めは3、4歳児くらいの大きさだったのに2ヶ月経った今では12歳くらいまでに成長していた。
さすがに何度も怒られたのでムサシの股間に手を出すようなことはしなくなったが、口移しでの食事は今でも毎回当然のように続いていた。

「ムサシィ、早くくれよッ!!腹減った。」
「何度も言わすなッ。きちんと自分で食べるんだ。甘えんな。」
「じゃぁ、ピーマン食べたらしてくれる?」
「………残さず食べたらな。」

こんな調子でいつのまにかこの行為になれてしまったムサシはどうしたものかと頭を悩ませる。
しかも困った事に本当の悩みは他にあって、でもそんな事をヒルマに悟られるわけにもいかず一人悶々とムサシは悩んでいた。
小さい姿だった頃のヒルマはとても可愛くて養護してやらなければと思わせるくらいにか弱かった。
それが今では無駄口は叩くわ生意気は言うわ、それなのにこういう時だけ小さい頃と同じように甘えてくる。
その上、大きくなった今の外見は可愛いというよりは綺麗で、眼には艶を帯び始めている。
今のヒルマには、その成長過程を知っているムサシでさえも時々ドキリとさせられてしまう妖しい魅力が備わっていた。

「なぁ、ムサシ?……んっ。」
「っ!!………食べ物は入ってないぞ。」
「だってムサシの口ん中ってすげぇ美味いんだもん。いてっ」
「こういうことはしちゃいけないっていつも言ってるだろう。」

こういうことはしてはいけないとムサシはいつも自分自身に言い聞かせている。
ヒルマは子供でペットで守る者で絶対にそういった対象にはしないと決めてここまで育ててきたのに、その決心を簡単にぐらつかせるヒルマに腹が立って軽く頭を叩いて怒る。

「………なんでしちゃいけないんだよ?」

ヒルマの抗議にムサシの鼓動大きくなる。

「だから、そういうことは好きな人とするもんだっつってんだろうがっ!!」

こんなに五月蝿い心臓なんて止まれば良いのにとムサシは舌打ちしながらいつもの様に模範回答をヒルマに与える。

「………でも俺、初めてあった時からムサシのことずっと好きだぞ?」

初めて聞くヒルマの言葉にムサシは顔を向けることが出来なくなった。

「………ムサシは俺の事好きじゃないのか?」

初めて尋ねられるヒルマの質問にムサシは答えてやる事が出来ないでいる。
机を挟んでヒルマが不安そうにムサシに近寄ってきた。
ムサシは思わず席を立ってヒルマとの距離を置く。
途端に傷ついた表情でヒルマがムサシを見上げるからムサシはまた何も言えなくなる。

「…………やっぱり俺が中古品の不良品だから?」
「は?何言って………ヒルマ?」

今度はムサシが顔を向け、ヒルマは俯き言い難そうに視線をさまよわせる。

「俺、変なのは判ってるけど………初めのやつに教えられた事とか消えなくて………ごめん。」
「覚えているのか?」

ムサシの問いにヒルマは答えられずにただ震えている。
ムサシの中に無性に黒いモヤが広がって、気が付いた時にはヒルマを掴まえて唇を合わせていた。

「ムサッ?……んっ……ふぅ………」

初めて戸惑うヒルマの舌を掴まえてムサシは口付けを深めていく。
息が出来なくて苦しくてヒルマの目に涙が滲んだ。
ヒルマはそれでもムサシの身体に両手を伸ばして抱きついてくるから、ムサシも抱きしめ返してしまう。

「ぷあっ!!はっ……むっさし?」
「…………」

漸く開放されたヒルマは荒い息を整えもせずムサシに行為の意味を尋ねてくる。

「ムサシ?」
「………………」

ヒルマは勇気を出して再び声をかけてみる。

「ムサシ、ごめん。」

無言のままのムサシに申し訳無くて悲しくてヒルマが離れようとした瞬間、ムサシは強くヒルマを抱きしめる。

「っ?ムサシっなに?」
「オマエはっ!!人がこんなにきちんと育ててやろうとして必死になって我慢してるのに何でそれをぶち壊すんだよっ!!」

ヒルマはムサシの言葉に目を見張る。
その表情はヒルマが初めてムサシの所へ来た日、腫れた頬を舐められた時に見せた表情と同じだった。
きっとムサシはあの瞬間すでにヒルマに恋していたに違いない。
その事に気が付いたムサシは観念する。

「良い親父気取ってこのまま行きたかったのに、もう無理だな。」
「ムサシ?」
「これからは恋人としていく事にするッ!!」

ヒルマは嬉しくて我慢できず、ムサシに抱きつき泣き出した。
そんなヒルマをあやすように抱きしめながらムサシは新しい誓いの言葉を口にする。

「ただし、エッチはまだまだお預けだっ!!」
「はぁ?」

ヒルマの涙が止まって、潤む瞳でムサシを見上げる。

「何言ってんだ?糞ジジイ。恋人ってのはそうするもんなんだろう?何で?何で?」
「お前、まだ子供の癖にさかるなんて早過ぎるだろう!!」

ムサシの要らぬ心遣いに少しむかついたヒルマがぼやく。

「おまえ、我慢できんのかよ?」
「どうせすぐ成長するだろう。」
「俺の大好物食わせてくれたらすぐ大きくなるぞ!!」
「何?大好物って」

ムサシは嫌な予感を滲ませながら、とりあえず未来の恋人の意見を聞いてみる。

「精え…きっイテテテテテテ!!何すんだっこの糞ジジイ!!!」
「あれは食べ物じゃありません!!もう一度いちから教育し直しだな!!」
「ファッキン!ファッキン!!糞ジジイー!!」

急に復活したムサシの教育パパぶりに、甘い空気も切ない事情も全て取り払われる。
でもきっとこの関係がすぐに終りをつげ、新しい関係が始まるのはもうすでに目に見えていた。
それでもまだ暫らくはこうして平穏無事な日々を満喫するのも悪くはないと、今この貴重な時間の中で二人は幸せに笑うのだった。