武蔵が出張に行った。
しばらく帰って来ないらしい。
まあ、俺が一人で生活出来るようになったから、それで安心したんだろう。
確かに、世間の常識ってやつを知るまで俺は酷い厄介物だった。
面倒で、手に余る存在だったと今は思う。
だからこうやってムサシが仕事に熱中出来る生活は、喜ばなくてはならない。
本当は、とてもとても寂しい事だけれど。
冷蔵庫から冷えた食べ物を机に並べ、席につく。
一人で食事ができるようになったら一人前だな。
そう言って頭を撫でてくれたから、御褒美をくれると言ったから、必死で覚えた。
食事。
ほんとうはこんな「食品」なんて食べたいとは思わないけれど摂取しなければ体調は思った以上に崩れてしまう。
一度寝込んだ時のムサシの慌て様を見てからは、体調管理を徹底しなけりゃならねえと心に誓った。
武蔵がつきっきりで世話をしてくれるのはとても嬉しかく、けれど、徹夜でふらふらになりながら仕事に向かう後ろ姿は見ていてとても申し訳なかった。
無理をさせたくない。心配をかけたくない。迷惑をかけたくない。
捨てられたく無い。
今はとても良い関係を作っているとはいえ。できるだけ「イイ子」でいなけりゃならない。ムサシが俺を誉めてくれる、俺を見て笑ってくれる。それを見るのがとても嬉しい。楽しい。胸が一杯になる。
だから、言われた事はできるだけ守る。
一人で食事をするのもその一部だ。
口に入れる物はどれも冷えて味気なく、食欲も無かったがただ義務感だけで飲み込んだ。
味が、足りない。
ムサシの味が、しない食事。
口の中に含んだ肉の塊は、どれ程噛んでも飲み込む事ができない。
せめてここにムサシの味があれば。
噛む程に「肉」の味は消え、ただ、口の中に繊維とぼそぼそとした舌触りを残す。
咀嚼すればその肉にだ液が吸い取られて口の中から吐き出したくなる。飲み込む事に酷い苦労が必要だった。
牛乳で無理に流しこんでも、べたべたとした脂が舌先に残る。顎が疲れて、これ以上は動かしたく無い。
それでも機械的に、次の塊を口に押し込んだ。
皿の上に残るのはあとほんのわずか。これを食べれば今日の「食事」は完食となる。
だ液が足りず、塊はただ舌の上でごろごろと転がるだけだ。
ヒル魔は目を閉じて夕べの事を思い返した。
出張だと言われて、ごねた自分を甘やかすように、それはキスから始まった。
何度も髪の毛をぐしゃぐしゃと撫で回されるのが嬉しくて、目を閉じてその大きな手の中に頭を預けた。
口の中を動く舌にすぐに息は荒くなって、息が苦しいと感じた時にムサシはふいと身体を離した。もっととせがみたく思う気持ちは、シャツを握りしめる手で伝わったのだろうか。すぐにぎゅうと抱き締められて肺から息が大きく漏れた。
強く抱かれる事が嬉しく、気持ち良く。
くたりと力の抜けた身体は、ムサシに脱がされる刺激に震えた。
太い指が足の間に潜り込み、その奥の小さな器官にゆっくりと潜り込む。
自分が「人」じゃなくて良かったと思える数少ない瞬間。
そこは、ムサシを待っているように指を咥えてしめつけた。
「人」より痛みを遠くに感じるこの身体は、快感にはとても敏感だった。
数度かき回されれうだけで視界は揺らぎ、声が止まらなくなる。
とろとろと熱い身体はもう自分では押さえる事が出来なくなって、湿ったその先端をムサシの手の平に押し付けた。
「もう、欲しいのか?」
震える手でムサシの下肢を剥いていき、現れたそれに舌をからめる。
一度、それを前に「待てと言われた時。とても物欲しそうな顔をしているとムサシが笑った事があった。
ムサシは、知らないのだ。自分にとって「これ」がどれほど必要なのか。
「それ」は、とうに食事だけではない物がある事を。
滲んでいた液を先端からゆっくりと嘗め上げ、綺麗にした所で口に含む。
頭上から漏れる音も、髪をやさしく撫でる指も、舌の動きで時に止まり、時に大きく、小さく、強弱がついてヒル魔を楽しませる。
舌の先で脈打つ血管。口の中を広げる大きさ。唇に伝わる熱さ。ムサシが漏らすため息。
少し煙草臭い匂いも、少し赤らんだ顔でこちらを見下ろす表情も、何もかもが心地よい。
口の中に広がるそれは「ムサシの味」は、そんな物を巻き込んでヒル魔の下肢を刺激した。
五感全部でムサシを味わう、とても貴重な食事の時間。
知識を覚え、常識を叩き込まれる程、この行為は大切になった。
大好きなやつと、する事。
その中でも、特に大切な間柄にだけ許される行為。
それは食事ではないと教えられた。最初の衝動はそこから始まった。
けれど、自分にはそれが必要なのだ。
自分の「良さ」を伝えるために、気持ちよさそうにするムサシをもっと喜ばせたいために。
捨てられないように、自分の「気持ち」を伝えるために。
くり返す内に行動の理由は変わり始めた。
十分にムサシの物を口で味わっても、まだその勢いは衰えない。
ほんとうは口で最後まで味わいたかったけれど、腰の奥から沸き出す疼きにとても我慢できそうになかった。
指だけで溶ける程柔らかくほぐされた下肢を、のろのろとその先端にあてがって腰を下ろす。
「ひっ………」
「人」ではないこの身体は、快感を貪欲に貪り続ける。
恐らく、「そういった」目的にそうようにあらかじめ作り上げられているんだろう。
刺激にすぐに反応する素直すぎる身体。
どれほど強く突き動かされても痛みを感じない器官。
ムサシは優しいからそんな事をしないと思うけれど、きっと酷い事をされてもそこは柔らかくムサシを包んで締め上げるだろうと予想ができた。
根元まで難無く飲み込み、ヒル魔は身体に押し込まれた質量を味わった。
ムサシを、身体全部で味わう瞬間。
揺すられて、不満な気持ちが吐息に変わった。
「あっ……ん………」
ぎち、と音がしそうなほどに締め付けていた場所がゆるゆると持ち上げられる。
小さな身体はムサシの手で簡単に持ち上げられ、適度な所で落とされる。
ムサシが達する前に抜けてしまう事が嫌で、大きく動かれると反射的にその先端を締めてしまう。
すぼまった所に強く押し込められて、崩れる身体をムサシは突き上げる。
「やっ……ぁあんっ………」
力が抜けて崩れ落ちた身体をを何度も上下に揺すられて、びくびくと背が反れた。
後ろに倒れかけて、なんとかムサシの肩に手をかけても汗で滑って上手くゆかない。
抱きつきたいのにどうしても上手く出来なくて、下からの突き上げにキモチ良くて。
涙がこぼれた。
もっと、欲しい。
もっともっと、ムサシが欲しい。
まだ成長途中の両足は、力が抜けて役に立たない。
両腕はムサシの頭を抱き締めるにはとても短い。
抱きついて、密着して、自分からも身体を揺すりたいのに。
きっとムサシはいつも自分に気を使っていて、本当はもっと色々な事をしたいんだろう。
たった一度、精を放っただけで満足しているとは思えない。けれど、この身体はあまりに未熟だ。
薄れかける視界にムサシが大丈夫かと覗き込んで来た。
もっと、だ。
もっともっと欲しいんだ。
けれど、舌がもつれて言葉にならない。
キモチイイとさえ、伝えられない。
ぼろぼろと涙がこぼれるのは、辛いからじゃない。
もっと、したい。
もっと、ムサシの味が欲しい。
けれどムサシはヒル魔の下肢に手を伸ばす。だらだらと液を流す先端を指で擦り上げられて、身体が反った。
ほんの数度の刺激だけですぐに終わりに届いてしまう。
「あーーーーっ!!」
そのまま揺すられて、ムサシが奥まで熱いものを注いだのが分かった。
じんわりと広がるその体液をこぼしたくなくて、きゅ、とムサシを締め付けるのが精一杯だった。
もっと、しよう。
そう言いたくてヒル魔は手を伸ばした。つもりだった。
ムサシが体内から抜けて行く感触に、弛みそうな腰に力を込めた。
もっと、したい。
もっと、ほしい。
急速に薄れてしまう視界でこちらを見下ろすムサシにむかって口を開きかけて。
いつも記憶はそこで途切れる。
はあ、とため息をついてヒル魔は肉を噛み締めた。
思い出せばこんなにもはっきり浮かぶ、ムサシとの昨夜の記憶。
あそこでまた眠ってしまった自分が悔しい。しばらく会えないのだから、せめてもう少し甘えてねだるつもりだったのに。
口の中に溢れただ液で、なんとか最後の塊を飲み干した。
味気ない、食事はあと何度続くんだろう。
ムサシを思い出して中途に高ぶってしまったこの身体を、何度慰めれば良いのだろう。
ムサシの味が恋しい食事。
ムサシが足りない、一人の食事。
おわり