今は定期試験期間真っ只中で、部活も授業も全て試験一色に塗りつぶされる。
すでに答案を済ませたヒル魔は、とても静かな校庭を窓から眺めながら物思いにふける。
こんな静かな時間は胸がざわついて落ち着かない。
定期試験の答案を記入する耳ざわりな小音の渦に少しだけ頭痛を覚える。
一時的に日常からアメフトを取り上げられただけで、静かすぎて何もかもから捨てて行かれたような錯覚に陥る。
今すぐ部室に駆け込んで現実を確かめたくなる。
『あいつはいつもこんな気持ちを抱えているのだろうか?』
どんな時にも頭から離れない男、ムサシを想って校庭から目を逸らす。
『もっともっと仕事を増やしてこの場所に繋ぎとめておいてやろう。』
手に入らない物を鼻先にぶら下げて見せびらかされる残酷さを考えないわけではないが、少なくとも静けさに攫われる事は無いだろうと言い訳してみる。
突然鳴り響くチャイムの音と、途端にざわめき出した雑音に心臓が跳ね上がる。
その様子を誰かに見られてはいないかと小さく舌打ちして席を立つ。
足は自然と部室へ向かい、来るかどうかもわからない男を待つために曖昧な時間を潰す。
「つまらねぇ……。」
そうは言いながらも、静けさはさっきと同じなのに場所が違うだけで少し落ち着く自分に苦笑する。
ベンチに横たわりムサシが貼ったかもしれない天井を見詰める。
その時の気持ちがどんなものだったのか、考えると気が滅入るので目を瞑り何も見えなくする。
「こんな時期に何しているんだ?」
ヒル魔はいつのまにか眠っていたらしく、いつも耳から離れない声に起こされた。
「別に、帰ってもやる事ねぇからな。」
「テスト期間中だろう、勉強しろ。勉強。」
「ケケケッ、必要無ぇ。お前と一緒にすんな、空っぽ頭の糞ジジィ。」
可愛げが無いなと自覚しながらも、ムサシがいつも受け入れてくれる事に甘えて悪態をつく。
ムサシのほうも特に気にした様子も無くヒル魔の枕元に座って身体を休める。
「おい、ムサシ。今日はもう誰も来ないぞ。」
「そうか。」
「………糞ッ、このニブヒゲ………人が誘ってんのもわからねぇのかっ。」
「そうか。」
本当は気付いているはずなのに、ムサシは時々とぼけた振りをする。
ヒル魔の方もいつもならどんなに焦れったくてもこんなに単刀直入には口に出さない。
ただ今日は少し静かすぎたから、胸のざわつきを止めたくてヒル魔から折れてしまった。
「………んっ」
ムサシが唇を合わせてくる。それに応えようとヒル魔も口を開いて舌を差し込んでやる。
ピチャピチャと舌を絡ませあう音が心地よくて安心する。
いつもより言葉少なにお互いを求め合う情事に、快楽よりも安堵を覚える。
胸のざわつきは完全に消えたわけではないけれど、いつか必ず消してやるさとヒル魔は声に出さず笑う。
その笑顔の意味を知ってか知らずかムサシも少しだけ笑った。
終