1)
夕暮れ時というには遅く、周囲の景色が電灯で照らし出される。
泥門高校デビルバッツの面々は、いつもと変わらず練習後の帰り支度に勤しんでいた。
地獄の特訓に疲れ切った体を、明日に備えて一刻も早く休ませようと誰もが足早になって帰宅していく。
そんな中でアイシールド21こと小早川瀬那だけが、蛭魔の姿が見あたらない事に気が付いた。
周囲を見回して蛭魔の姿を探すセナの耳に、栗田の間延びした声が聞こえる。
「セナ君、鍵締めるよ〜。」
「ちょっと待ってください。蛭魔さんまだ着替えてないみたいなんですけど。」
「蛭魔だったら合鍵持ってるし、大丈夫だよ。」
「でも・・・・・・・やっぱりちょっとだけ探してきます。」
外へ走りだしたセナを栗田がキョトンと見つめる。
セナは校庭や河原などよく練習に使う場所を中心に、その俊足を生かして手早く蛭魔を探した。
けれども蛭魔の姿はどこにも見えず、仕方なく栗田の待つ部室へと戻る。
「蛭魔さん、どこにもいませんでした。」
「ん〜?じゃあ、あそこかなぁ?」
「どこなんです?」
「作戦会議室。」
それは部室を増築する際に、蛭魔がごり押しで仲の良さげな大工に作らせた部屋だった。
蛭魔はいつもそこで、撮り貯めたビデオや様々な資料を持ち込み、試合相手の分析から作戦まで一人で練っていいる。
時々栗田も参加するようだが、それは何時も蛭魔の中で考え方が纏まりかけたあたりからであって、実質は蛭魔が一人で閉じこもっていることが多かった。
栗田に促されて、セナは自称作戦会議室の前に立ち、ドアの外から声をかける。
「あの、蛭魔さん?」
「・・・・・・・・・・・。」
ドアの隙間から聞こえるテレビの音とうっすら漏れている光りが、中に人がいることを伺わせる。
一応セナはドア越しに声をかけて、しばらく待つが返事がない。
思い切ってドアに手をかけたその時、部屋の中から怒号が響いた。
「邪魔すんじゃねぇっ!さっさと帰りやがれ、糞チビッ!?」
声だけとはいえあまりの剣幕に、セナは思わずドアから離れて栗田にぶつかる。
長年の慣れというか、さすがに栗田はその場で同じ声を聞いたはずなのに一向に動じていない。
そのままセナを支えながら、にこやかに話してくる。
「ね?居たでしょ。あそこで籠ってる時の蛭魔は誰が近寄ってもああだからさ。さ、もう帰ろ?」
「でも・・・・・・・・・。」
「蛭魔の居場所も分かったし、それに僕もうお腹空いて倒れそう。セナ君が残ってると鍵締められないんだよね。」
「あっ、すいません。」
そう促されても、セナはなんとなくこのまま帰りたくはなかった。
立ち尽くしてドアを見つめるセナの耳に、ググゥと大きな腹の音が聞こえる。
仕方なく、豪快に腹の虫を鳴かせて弱る栗田に頭を下げながらセナは部室を後にした。
2)
ドアの向こうで遠ざかる足音に、蛭魔は安堵のため息を漏らす。
傍らでその様子を見つめる男の顔には、厭らしい笑みが浮かんでいる。
蛭魔は男を睨みつけた。
「悪・・・趣味にも、程があっ、んん・・・。」
蛭魔が文句を全て吐き出す前に、細い腰が乱暴に突き上げられた。
その衝撃に、蛭魔は自分の身体が男と繋がっていることを思い出す。
できるだけ声を漏らさないように唇を噛み締めながら、どうしてこんな状況に陥ったのかを思い出す。
それはセナが蛭魔の不在に気が付く少し前のことだった。
蛭魔はいつものようにビデオを再生しながら、資料作りに没頭していた。
「相変わらず、そういうの得意だな。」
「うわっ!・・・・・・武蔵テメェ、いつ入ってきやがった。」
耳元で急に声をかけられ、蛭魔が大袈裟に飛び上がる。
その姿を武蔵は無表情に見つめていた。
蛭魔はあまりに集中し過ぎていたため、背後に立つ大工姿の男に気が付かなかった。
その失態に舌打ちしながら、ごまかすように話しかけた。
「いつって、初めからずっとだ。空調の調子が悪いって文句垂れてたのお前だろうが。」
「なんですぐに声かけねぇんだっ!!」
「お前は着替えて無いからすぐに出て行くと思ったんだよ。」
そう言って武蔵は蛭魔の横に腰を下ろした。
武蔵は首に手をやり、ボキボキと音をたてながら頭を捻る。
その様子を蛭魔が何とも無しに見つめていた。
一年前まで一緒に高校生をしていた男の横顔は、今ではすっかり大工親父へと変わっている。
もうあの頃に戻る気は無いというように、わざと親父臭い仕草や格好ばかりをするようになっていた武蔵の姿が蛭魔を苛つかせる。
それはまるで、栗田と自分たちの3人で交わした約束を反故にされたような気分にさせる。
そのことが無償に苛立たしくて、蛭魔は不機嫌な声音で口を開いた。
「おい糞ジジィ、テメェいつまでそうしてやがるつもりだ?」
「ん、もう点検は終わったから今すぐにでも出ていくさ。」
「そっちじゃねぇっ!!オレが言ってるのは、・・・そっちじゃねぇ。」
「・・・・・・・・・戻る気はねぇぞ。」
「ッ、・・・糞ッ。」
今まで何度も押し問答のように繰り返されてきた台詞が空しく途切れる。
一体いつになったら元の関係に戻れるのかと、蛭魔は俯いて唇を噛んだ。
そして弱々しい声で、小さく呟く。
「どうしたら、戻る気になんだよ。」
「・・・・・・・・・。」
どうしたら戻れるのか、そんなことは武蔵自身が一番問いたい。
どうすれば、また一年前のように蛭魔や栗田と一緒にアメフトができるのか。
空いてしまった蛭魔との距離を、どうやって埋めたら良いのか。
武蔵の中はそんな答えの無い問いかけで一杯だった。
「蛭魔、俺はどうにもならねぇって言っただろ。」
「それでも、何したらテメェの為になる?どうやったら取り戻せんだよっ」
どこまでも真っすぐな蛭魔の言葉が武蔵の胸を抉る。
蛭魔は何度言っても諦めない。
武蔵にはそのことがだんだんと腹立たしくなってきた。
だから少し意地悪くしてしまう。
「その身体使って頑張ってくれれば、俺を繋ぎ止めておくぐらいはできるかもな。」
「なっ!!」
「そんなに反応するな。今更だろ?」
武蔵の言葉に、蛭魔は顔を赤らめながら睨みつけてくる。
そんな顔をされても相手を余計煽ってしまうだけなのにと思いながら、武蔵は顔を逸らせた。
蛭魔との付き合いはそんなに飛び抜けて長い訳ではない。
けれど付き合いの深さだけなら、誰にも引けは取らないはずである。
つまり二人はそういった意味での深い仲だった。
しかし武蔵がアメフトを離れてからは二人だけで逢う機会も減り、最近ではとんと御無沙汰している事にお互い気づいていた。
「別に・・・テメェを繋ぎ止めとく手段で、する訳じゃねぇからなっ。」
「??」
何が、と武蔵が問う前に、蛭魔の唇が武蔵のそれに触れた。
短いキスの後、自分の方から誘っておきながら蛭魔は慌ててその場を立とうとする。
武蔵は無言でそれを制止して、自分の方に引き戻すと今度は逃げられないように捕まえて深く口づけた。
「んっ・・・、むさっ!!」
暴れる蛭魔を軽くいなしながら、武蔵は赤いユニフォームに手をかける。
ユニフォームといっても、試合ではないのでプロテクターの類いは付けていない。
蛭魔はユニフォームを素肌にそのまま着込んでいたため、忍び込んだ武蔵の手が生肌に直接吸い付く。
身体の上をはいずり回る硬い掌の感触に、擽ったさを覚えた蛭魔が身を捩った。
「むさっし、まだ練習は終わってね・・・ぇ、やめっ、んあっ」
まだ立ちきっていない胸の突起を色のついた周囲の皮膚ごと摘ままれ、蛭魔の身体が小さく撥ねた。
そのまま武蔵の指に押し潰され捩られるたびに、蛭魔がビクビク震える。
少しずつ確実に硬くなるその感触がおもしろくて、時折武蔵は指の中の物を爪で弾いて形の変化を蛭魔に伝える。
「いっつ、も・・・離っせ・・・・・・」
「痛いわけないだろ、体中がビクついてるぞ。」
「マジで、いってぇ・・・んぅっ」
久しぶりに触れられる胸先は、武蔵の乱暴な嬲りに悲鳴を上げている。
快感よりも先に、乾いた皮膚が擦れ合う摩擦が引きつったような痛みを与えていた。
本気で身体を捩り、武蔵の手から逃れようとする蛭魔を宥めるように、武蔵は舌先で顎のラインをなぞって尖った耳に齧り付く。
舌を差し込まれた耳の鼓膜に、濡れた音が籠もる。
生暖かく湿った肉に耳穴を犯され、甘い痺れが脊髄を伝って降りて行く。
それは途中枝分かれして、痛みしか感じなかった胸先の感覚を変化させる。
「ふあっ!・・・ん、」
「痛いって声じゃ無いぞ、それは。」
「ぅるっさ・・・ぁ・・・」
蛭魔の膝が小刻みに震える。
先程まで武蔵を押し返そうとしていた腕は、いつしか武蔵に縋り付くようにシャツを握り締めていた。
蛭魔は羞恥と快感に顔を赤く染めながら、苦しそうに眉を寄せている。
「武蔵っ、むさっ、んん」
自分の名前を呼ぶ唇に、舌を延ばすと口を開いて迎え入れてくれる。
珍しく素直な蛭魔の様子を眺めながら、会えない時間に焦燥していたのは自分一人では無かったと気づいて安心する。
舌を絡ませあいながら、武蔵は左手を降ろして蛭魔の股間を弄った。
「ぅあっ!やっ、そこ触んじゃねっぇ」
「こんなにしておいて、よくそう言うやせ我慢ができるな。」
「ひあっ・・・」
既に勃ち上っていた蛭魔自身は、武蔵が数回擦り上げただけでその先を濡らして張り詰める。
忘れていた胸への刺激を再開すると、蛭魔は息を詰めて大きく震えた。
いくらこういった行為が久しぶりとはいえ、そのあまりに過剰な反応に武蔵は驚く。
「おい蛭魔、ちょっと溜め過ぎてんじゃないのか?」
「・・・・・・っ」
「あのなぁ、溜まったら自分で抜くぐらいしろ。」
「・・・誰のせいだとっ」
「蛭魔?」
いつの間にか後ろでいく事を覚えた身体を、蛭魔はいつも持て余してしまう。
今更自分で処理したところで、武蔵に教え込まれたこの身体では逆に欲求不満ばかりが募ってしまう。
だから出来るだけこういった事に目を背けて来たというのに、武蔵はそれを全く理解していない。
恨めしそうに見つめてくる蛭魔の表情を、行為の催促と勘違いした武蔵の手が後ろを弄り出す。
「ちょっ、糞ッ・・・調子にのんなっ!!」
「ここまできといてそりゃないだろ。」
「嫌だっ、やめっ・・・ひっ」
中途半端に高ぶった前を戒められたまま、武蔵の指を後孔へ受け入れる。
そこも胸の先と同様に、久しぶりの刺激に痛みを訴え異物を排除しようと蠕動する。
身体の抵抗と、食いしばった口端から漏れる蛭魔のうめき声に武蔵はいったん指を抜いた。
「ぅうっ・・・ぁ・・・」
「ヨクしてやるから、ちゃんと協力しろよ。」
「ぅっ、ふ?ひぅっ」
今まで蛭魔の茎を握っていた手が、離れて後孔へと伸ばされる。
反対の手がすぐに股間へと伸び、蛭魔のモノは乾いた手に捕らえられた。
初めは上手く滑らなかった武蔵の手も、蛭魔の先端から滲み出る先走りによって、すぐに湿った音を立て始める。
体中が痺れるような快感に蛭魔が身を震わせていると、その隙をついて蛭魔の体液で濡れた武蔵の指が後孔へとまた突き立てられる。
「ぅあっ、あっ・・・く、んっ」
指に付いたヌメリに助けられ、今度はたいした抵抗もなく指の根元まで差し込まれる。
そのまま緩やかに抜き差しが加えられ、蛭魔の身体が少しほぐれたところで指が増やされる。
蛭魔がいくら嬌声をかみ殺そうとしても、飲み込みきれない唾液とともに声が漏れ息が荒くなっていく。
「ふあっ、あっ・・・むさっ、イキたっ・・・」
「久しぶりだし、初めは一緒にしたい。挿れるぞ?」
「ひっ!・・・あっ、ああっ、んっひぅ」
武蔵は蛭魔を机にうつ伏せ、背後から侵入して行く。
その間も茎を握る武蔵の手が、根元の戒めを解くことはない。
熱い欲望を吐き出せない苦しさと身体を割り開かれる圧迫感に、蛭魔は頭を振り嬌声の間で嫌だと繰り返す。
ゆっくりと楔を打ち込まれるように侵入してくる武蔵の熱が、もうこれ以上は無理というところまで捻じ込まれる。
蛭魔がその形に馴染もうと力を抜いた瞬間、背後のドアから声が聞こえた。
3)
外に誰かが立っていた。
たぶん声の感じからしてセナだと気づく。
それと同時に、急に始まった行為だった為、蛭魔は部屋のカギを締めていないことを思い出す。
武蔵に挿し貫かれてしまっている今、ドアを開けられたらどんな言い訳も聞かない状況にあった。
焦るあまり、返事が出来なくて黙り込んでしまう。
緊張が身体を伝い、後孔が思わず武蔵を締め付けた。
背中から武蔵の息を飲む音が聞こえるが気にしていられない。
今は何よりもこの危機を回避する方が先決だった。
どうしたらよいかと必死で考える蛭魔に気を悪くした武蔵が不穏な動きを見せる。
「うぐっ・・・ふっ・・・」
「声だすと、一発でばれるぞ。」
そう言いながら、武蔵は蛭魔の口を押さえて腰を揺すった。
蛭魔の悲鳴がノドの奥から押し出される。
口を塞がれていたので辛うじて外には漏れなかったものの、鼻を通り抜けた嬌声がやけに大きく蛭魔の耳を打つ。
武蔵の悪戯を止めさせたくて、蛭魔は自分の口を塞ぐ手に爪を立てた。
そうすると仕返しにもっと腰を使われてしまうので、その衝撃に涙がこぼれる。
「んっ、んふ・・・ふっ、んんぐ・・・ぅ」
「静かにしないとバレるって言ってるだろ。それとも見せつけてやるか?」
「んんっ!」
蛭魔が必死で頭を左右に振り、武蔵の言葉に反対する。
そんな蛭魔の耳に、カチャリと小さな音が聞こえた。
外からドアを開けられる気配に、蛭魔は渾身の力で武蔵の手を口から引きはがし、鋭く叫んだ。
「邪魔すんじゃねぇっ!さっさと帰りやがれ、糞チビッ!?」
外で人がぶつかる音がした。
二人は息を潜めて様子を伺う。
話し声が聞こえて来て、外にいるのがセナと栗田だと分かった。
栗田がセナを促し帰ろうとしている。
早く帰れと念を送る蛭魔は、武蔵が手を伸ばして何かをしようとするのに気が付かない。
そろりと伸ばされた武蔵の指が、蛭魔の茎を握り込んだ。
「ひうっ、んむっ」
「しー、静かにしないと聞こえるぞ。」
思わずあげてしまった声を両手で口にかき込むようにして、蛭魔自ら口を塞ぐ。
武蔵が耳元で囁きながら、張り詰めたままの蛭魔を上下に擦り上げた。
その手を引き剥がそうにも、蛭魔の両手は口を塞ぐだけで精一杯で使えない。
感じてしまわないようにと歯をくいしばってみても、腰を突き上げられてしまえばどうしようもない。
前と後ろの両方から責められて、蛭魔は限界を覚えた。
「ん、くぅっ!!」
蛭魔の身体が硬直し、中に入っている武蔵を締め付ける。
武蔵の手の中で蛭魔が膨れて勃ち上り、次の瞬間白濁した熱い液体をぶちまけた。
ぐったりと力の抜けた蛭魔の耳に、遠ざかる足音が聞こえる。
蛭魔は人の気配がしなくなったドアに目をやり、ぼんやりとした頭を働かし始めた。
一息ついてようやく武蔵に対する怒りが湧いてきた。
「悪・・・趣味にも、程があっ、んん・・・。」
「一人だけ出しといて何言ってるんだ?」
そう言われて蛭魔は身体に刺さったままの硬さに気が付く。
同時にまた突き上げられて二の句も告げられない。
声を漏らすまいと必死に口を押さえて、体を揺さぶられている蛭魔に武蔵が動きを止めた。
どうしたのかと思う中で、武蔵を迎え入れたまま身体を反転させらる。
向かい合う姿で蛭魔が抗議すると、返事の代わりにまた突き上げられる。
「ぅあっ・・・ん、何しやがっ」
「もう声出しても良いぞ。」
「えっ、あっ・・・ひっ、ん」
武蔵の動きに嬌声が上がる。
それが嫌で蛭魔がまた口を塞ごうとすると、武蔵に手を封じられた。
仕方がないので唇を噛み締め声を防ごうとすると、喉から顎にかけてを嘗められ口端が緩む。
「誰もいなくなったし、我慢しないで声出せよ。」
「ひっ・・・く、やっ・・・だっれが、あっ、くぅ」
「さっき出したばっかなのに、もう勃ってきてるぞ。」
「見るっな、ひぅっ、ああっ・・・ん、ふぁっ・・・やっだ、恥ずかっし・・・」
向かい合わせのまま揺すられて、武蔵に全てを見られてしまう。
羞恥に身体を染めながら、必死に声を押し殺そうとしては失敗する蛭魔に武蔵が囁く。
「蛭魔、お前の声かなり腰にくる。」
「ふっ、あ?・・・」
「聞いてると、本気で離れたくっ・・・なくなるな。」
「なら、もっと・・・鳴かせっ・・・やがっ、れ」
返ってきた言葉に、少し驚いた顔で武蔵が蛭魔を見下ろす。
それに気づいた蛭魔は、苦しそうに眉根を寄せる表情をガラリと変えた。
口端に浮かぶ笑みは、綺麗と言うより淫猥。
目許を染める朱色は、媚びた感じでいて挑発的。
そんな蛭魔の誘惑に、武蔵の喉がゴクリと音を立てて上下する。
「んっ、あっ・・・ひぅん、むさっし、あっああっ・・・」
先程までと違い、蛭魔はもう声を押さえようとはしない。
いくらでも持っていけと言わんばかりに、甘く切なそうに声をあげ始めた。
目の焦点はぼやけて、また眉根が歪められていく。
武蔵はなにもかもを忘れて、ただ動物のように蛭魔を貪った。
蛭魔も素直に反応を返して武蔵に甘える。
それは二人が同時に果てるまで続いた。
4)
隣で武蔵が身支度を整えている。
蛭魔はそれをぼんやりと眺めながら机に横たわっていた。
あれだけ乱れて爛れきった後なのに、武蔵はさっさと自分から離れていこうとする。
急になにもかもが馬鹿らしくなり、蛭魔はそっと転がって武蔵に背を向けた。
そんな蛭魔の気持ちを知ってか知らずか、武蔵が口を開いた。
「蛭魔、何してんだ。帰らないのか?」
「ぅるせ・・・。腰だるくて動きたくねぇ。」
「声、涸れてるぞ。鳴かせ過ぎたか。」
「うるせぇって言ってんだろがっ!!」
喉がしゃがれるほどに喘いでいたのかと、蛭魔は声を出してみて初めて気づく。
決して繋ぎ止めるためにやった行為ではなかったが、結果としてそれで武蔵が戻ってくるのであればそれで良いと思ってしまう。
行為の最中にそんなことは口に出せないけれど、叫び出したくなる本音を嬌声でごまかした。
「起きられないんなら、送るぞ。半分は俺の責任だしな。」
「けっ、殊勝なこと言ってんじゃねぇ。大体半分どころか全部テメェのせいなんだよっ!」
「楽しんだのはお互い様だ。ほら、起きろ。送ってやるから。」
「いらねぇ。シャワー浴びて一人で帰る。」
そっぽを向いたまま、動こうとしない蛭魔に武蔵は焦れる。
こういう時の蛭魔がテコでも動かないことは分かっていたから、仕方なく武蔵はそのままドアへと足を向けた。
「強情っ張り。」
「テメェには負ける。」
「どこがだ。」
「さっさと戻って来やがれ。」
「・・・・・・・・・・・・。どうしても一人で帰れそうになかったらケータイ鳴らせ。じゃぁな。」
蛭魔の願いを無視して武蔵は出て行く。
武蔵が振り返らないことを知っている蛭魔は、こっそり頭を回してその背中を見つめた。
ドアが閉まる直前、急に武蔵が振り返る。
ほんの一瞬、二人の視線が絡まった。
蛭魔は驚いて目を丸くし、武蔵はばつが悪そうに視線を逸らせる。
そしてドアは完全に閉まって二人を隔てた。
部屋に一人取り残された蛭魔が、ドアを見つめながら呟く。
「まだ、充分脈有りじゃねぇか。」
振り返るはずのない男が振り返った。
その理由を未練と言わずして何というのか、蛭魔には思いつかない。
諦めろと言われて簡単に諦められるようなら、ここまで本気にはならなかった。
クリスマスボールも武蔵も何もかも、近い将来いつか必ず手にいれてみせる。
ドアの向こうで遠ざかる足音に耳を傾けながら、重だるい身体を抱えて蛭魔は満足そうに笑みを浮かべた。