「ヒル魔、温泉行きたくないか?」
「?……別にどっちでも。」
「嫌ならいい。」
唐突なムサシの誘いに、たいした気持ちも考えも無くヒル魔が答える。
ヒル魔に悪気があったわけでは無いのにムサシが勝手に気をもんで怒ってくる。
だからため息混じりにヒル魔はムサシを宥めにかかる。
「………誰も嫌なんて言ってないだろうが、拗ねんな、糞ジジイ。」
「じゃあ、行くのか?」
「ああ。」
せっかく直ったムサシの機嫌が崩れても面倒なので、ヒル魔は珍しく素直に返事を返してやる。
その様子に満足したムサシは満面の笑みをヒル魔に向ける。
仕方の無い男だと苦笑するヒル魔の唇にムサシが触れてくる。
キスされるなと思いながら相手を待つこの短い時間もヒル魔は結構気に入っていた。
温泉なんてムサシの思いつきでしかないと思っていたが、実は本当に近場で温泉宿を見つけていたようだ。
以前仕事を請け負った時、依頼主に気に入られて一度くらいは自分の関わった温泉につかってみたらどうかといわれていたらしい。
ここは湯が良いんだとか露天風呂が最高だといいながらあちこち見せて回りたがるムサシの様子に少し切なさを覚える。
きっとムサシが見せたいものはここで請け負った仕事の成果であって、それは暗にヒル魔への諦めを促すサインではないかと勘ぐってしまう。
思わず表情の曇るヒル魔に気付いて、ムサシが真剣に顔を覗きこんでくる。
「おまえ、最近無茶しすぎて疲れてるだろう?」
「……疲れてねぇよっ。」
「強がりはいいから今日は何も考えずに疲れをとれって。なんのためにここまで連れてきたんだと思ってるんだ、まったく。」
あまりに意外なムサシの言葉に上手く返事が出来ず舌打ちしてしまう。
「こっちは糞ジジイの趣味に付き合ってやってるだけだっ!!オラッ、とっとと入るぞ!!」
「あぁ、はいはい。」
照れ隠しなんて事は簡単に見破られて、居心地の悪さにたまらずヒル魔はさっさと着ている物を脱いで露天風呂へと入っていく。
ムサシはいつもこうだ、ついさっきまで自分のほうが大人の対応をしていて余裕も充分あったはずなのに、いつのまにか一瞬で逆転されてしまう。
イライラしながら入った露天風呂はこぢんまりとしていた。
薄暗闇の中、柔らかい光が燈って落ち着きのある空間を演出している。
「なかなか良い感じだろう。……だいじょうぶか?ヒル魔、顔赤いぞ。」
「ふん。湯に入って体が温まったからだろうっ!!」
ついさっき入ったばかりで温まるわけもないのだが、いきなり目に入ったムサシの身体にうろたえてしまったなんて言い出せるわけも無かった。
「ふぅ、結構ぬるいな。まぁ時間外だから仕方ないか。」
「時間外?」
「そう、だから今夜はいつまでも貸切だ。お前、人に裸見られんの好きじゃないんだろう?」
「お前は好きなのかよ、糞変態」
ヒル魔の悪態も虚勢を張るためだとわかっているのムサシは全て聞き流す。
「あぁ、今日は満月か………」
見上げた空に浮かぶ月を見てヒル魔が呟く。
「中秋の名月って言うんだ、そのくらい覚えとけ。このアメフトバカ。」
「知ったかぶりすんな、糞意地っぱり。」
ムサシの口から久しぶりにアメフトという単語を聞いてヒル魔は少しだけ嬉しくなる。
このまま全てがもとに戻ればいいのにと淡く光る満月に願いを掛けてみる。
そんなヒル魔の姿を見ながらムサシは自制心と戦おうかどうしようかと迷い始める。
月に見とれたヒル魔の姿は凶悪に綺麗だけれど卑猥でもあり、すぐにでもくらいつきたくなる。
「………顔、近いぞ。何考えてるんだっ。糞エロジジ……んっ」
ゆっくりと深く口付けてくるムサシにヒル魔はたいした抵抗もせず身を任せる。
こんな所でとも思ったが、予想していなかったわけではなかったので、逆に抵抗して誰か来たりなんかしたらそっちの方が面倒だと諦める。
「……んっ……あっ……」
ヒル魔を後ろから抱きかかえるようにしてその胸先をムサシがまさぐってくる。
「……てっめぇ、こっちが目的か?……ふぅっ…」
「いや、そうじゃなかったんだが……ついな。」
「ついじゃっ……ねっ……っ!!」
笑うムサシの息が耳に掛かってくすぐったい。
思わず首を竦めると耳を噛まれて股間に手を伸ばされる。
すでに反応し始めているそこは湯の中で簡単に掴まりその形を変えられていく。
「はっ………くぅ……」
「気持ち良い?」
「うるっさい!!……っ…」
恥ずかしくて真っ赤になった顔を左右に振りながら見を捩る。
そうすると浮力によって更に身体を密着させた状態になってしまう。
すると背後に固くなったムサシを感じてまた赤くなる。
「もっ……やめろ…、ひやぁっ!!」
いつのまにか後ろに忍ばされたムサシの指がヒル魔の体内に入りこむ。
しかもいつもは指だけなのに今日は湯までが敏感な内部に入りこみヒル魔を苛みだした。
「ぃやあっ!!あっついぃ……湯っ……入ッ……る……あぁッ、は…んぐぅ…」
「しー、あんまり声だすと人がくるから静かにな。」
「……っ!?」
耳元で諭すように囁かれる声とは裏腹にその指の動きは激しさを増していく。
わざとヒル魔の敏感な部分ばかりを引っかいて、その度に湯が入りこみヒルマは堪らなくなり涙を流す。
ムサシに押さえられた口元のおかげで声はほとんど漏れないものの、同時にやめろと叫ぶこともできない。
狡いと思う中で、指が引きぬかれまた体内に湯が入る。
「……んっ……んくぅ!!」
ムサシは浮力を利用してヒル魔を少し浮かせ、指の変わりに自らの猛りを刺しこんでいく。
背を反らせて刺し貫かれる感覚に耐えるヒル魔を弄ぶかのように揺すり出す。
「んあっ……やっ…んっ…んっ…あっつ……湯、入って……もっ……出っる!!」
重力が薄い中での突き上げはかなり激しく、ヒル魔はあっさりと降参する。
ムサシは、湯当たりも手伝ってぐったりするヒル魔の上半身を岩に上げて、また挿入を再開する。
「っ!!ひぁっ!!……あっ…あっ…」
突き上げる度に体内の湯が押し上げられ、ギリギリまで引き剥くと外へと掻き出される。
ヒル魔の意識は薄くなりただムサシから与えられる快楽にのみ反応する。
暫らくの間、月明かりの中で静かに響く虫の声とヒル魔の嬌声が武蔵の耳を楽しませていた。
「風呂場で良かったな。後始末が早っ……痛ぅ……」
「なぁにが疲れを取れだ!!余計疲れたじゃねぇかっ!!!この糞ヒヒジジイ!?」
初めは確かにそのつもりだったのだが、月明かりに浮かぶヒル魔の白い肌や湯の中で水面の影を映す艶めかしい肢体に我慢できる人間が居たらお目に掛かりたいと、ムサシは心の底で責任転化する。
ヒル魔も身体は疲れているものの、気分は少し晴れていて、確かにムサシの言う通り少し片意地を張りすぎているのかもと素直に思えた。
「ムサシ、早く帰ってきて俺を支えやがれっ……」
「ん、何か言ったか?」
「ッ……何も言ってねぇ、耳まで耄碌したのかよ!」
本当は聞こえているヒル魔の声にムサシはわざと耳を塞ぐ。
今はまだその時ではないからと声に出さずに詫びをいれる。
そうしていつか本当に支えられる日がくれば良いのにと思いながら、すっかり湯当たりしたヒル魔を支えて家路に向かう。
終