いつもの夕暮れ。
3人ならばいつものたわいないアメフト話で盛り上がるところだが、今は栗田がいないからムサシとヒル魔は黙ったまま並んで歩く。
最近ムサシとヒル魔は二人きりになると、なぜだかお互い上手く言葉が出てこない。
「おう、糞ジジイ。何かしゃべりやがれ。」
「人に言う前に、お前からしゃべれ。」
「............。」
「............。」
やっと口をきいたと思っても、すぐに会話は途切れてしまう。
いつからか、二人きりになると流れる微妙な緊張感。
その理由は二人とも自分でなんとなくわかっていた。
(たぶん自分はムサシが好き。)
(たぶん自分はヒル魔が好き。)
二人とも同じ気持ちとは知らずに、相手に絶対悟られないよう用心する。
その結果がこの有様。
夕暮れのオレンジが二人を照らす。
「おい、ムサシ見ろよ。すっげぇオレンジだぜ。」
ヒル魔が立ち止まり、傾きかけた太陽を指差す。
ムサシはその指が指す先を見て、それからヒル魔に視線を戻した。
「ああ、すごいな.........。」
ヒル魔の黄色い頭も白い顔も、全てがオレンジに染まるから、ムサシはその姿に見惚れてしまう。
「何見てんだよ、金取るぞ?」
そんなムサシの様子に気付いたヒル魔が慌てて憎まれ口を開いてそっぽを向いた。
「誰が払うかっ、バカヤロウ。」
ムサシも焦って売り言葉に買い言葉。
そしてまた訪れる沈黙。
「................。」
「................。」
いつまでも続く気まずい空気にムサシのほうから音を上げる。
「あー...その、何だな。」
「何だよ?」
「だからアレだよ。」
「......わっかんねぇ、きちんと日本語しゃべりやがれ。」
「.........笑うなよ、絶対笑うなっ!」
「だから何が?」
少しイラついた表情でヒル魔は、ムサシの言葉を待つ。
ムサシは自分の鼻の頭を掻いたり、首筋をこすってみたりしながらタイミングを見計らう。
「さっさと言やぁいいじゃねぇか。勿体ぶんなよっ、糞ジジイ。」
「................俺、お前のこと........好き、みたいだ。」
「......はぃ?」
ばつが悪そうに後ろを向いてしまったムサシの背中を見つめたまま、ヒル魔の思考回路は停止する。
「............マジ...で?」
「ッ...笑いたきゃ笑えよっ!!」
「さっきテメェ自分で笑うなっつただろうが。」
「うるさいっ!!」
「っざけんな!!」
子供の喧嘩のように、二人ともが癇癪を起こしてまたまた黙り込んだ。
「..........。」
「..........。」
しばらくの沈黙に、ムサシがため息をついて苦笑いしながら話しかける。
「あー、やっぱりいいわ。ヒル魔、さっきの忘れろ。」
「.........っ、糞ジジイっ!!」
「何だよっ......っ!?」
そしてムサシを呼ぶと同時に、その首に腕を引っ掛けてムサシを引き寄せ、その頬に一瞬自分の唇を押し付けた。
ムサシがそのことに気が付いた時には、ヒル魔はすでにムサシの身体を離して俯いていた。
「......ヒル魔?」
「っうるせぇ!しゃべんなっ、なんか言ったらぶっ殺す!!」
「何で......」
「うるせぇっつってんだろうが!今はこれでギリギリなんだよっ!!」
ムサシはヒル魔の行為の意味が知りたくて、ヒル魔が嫌がるのも聞かずについ口を開く。
だからヒル魔は本気で怒鳴り、歩き出した。
その顔は夕日のオレンジから、高潮して真っ赤に変わっていく。
ムサシも慌ててヒル魔の後を追って歩き出す。
「待て、このバカヤロウ!!」
「バカバカ言うなっ!テメェよりはましだぞ、糞老け顔!!」
「おまえなぁ、こういうのをなんて言うか知っててやってるのか?」
「なんて言うってんだっ!!」
「......蛇の生殺し。」
「っ!?」
ムサシの一言に一瞬ヒル魔は足を止めるから、ムサシも思わず立ち止まってしまう。
「だって、好きだけじゃ納まらないって、ヒル魔だって男なんだからわかるだろうがっ。」
「...........わかるけど、テメェだって男ならこっちの気持ちくらい察っしやがれ。」
「わからん。」
「...っ!?このっ糞ボケ、もういいっ!!」
「よくはないだろうっ」
「今はまだこれでいいんだよっ!!」
「........今はって...だからそれが生殺しって言うんだ。」
「もう黙れっ!!」
ヒル魔は怒鳴るだけ怒鳴ったら、またさっさと歩き始めるから、ムサシは仕方なく黙って後をついて行く。
少なくともお互いの気持ちはなんとなく分かったが、たぶん全てはこれからなのだと二人は感じていた。
こうして二人の中で動き始めた友情以上の何かは、ゆっくりと時間をかけて変わっていくのだった。
終