現の恋

いつものように帰宅した武蔵は、いつもと少しだけ違う部屋の様子に気付きその理由を探る。
少し彷徨わせた視線の先で、見慣れた顔を見つけた。
武蔵の目に映るその顔は、秘密を隠した子供のように明るい。
  この顔がこんな表情を浮かべる時は、決まって何かサプライズが待ち構えている。
それが武蔵にとって良いことなのかどうか、確かめるために口を開く。

「ヒル魔のほうが先に居るなんて、今日はいったいどうしたんだ?」
「・・・さすがに30のジジィだ。テメェの誕生日も忘れたか?」
「誕・・・生日?」

そういえばそんなものもあったかと、カレンダーに目をやれば、確かに今日は武蔵が生まれた4月2日。
しかし今更子供でもあるまいし、いちいち気に留めるほどのことでも無ない。
だからここ数年は自分の誕生日など、たいして重要に感じなくなっていた。
それは今目の前にいるヒル魔にしても同じはずである。
なのに今日に限ってどうしてと見つめる先でヒル魔がフンと鼻を鳴らせた。

「オレだって別にそういうのを気にする性格じゃねぇけどよ。通りがかったケーキ屋でそれ見てなんとなく・・・・・・。」

武蔵はヒル魔の言葉に、卓上の紙箱へ目を向ける。
あまり大きくは無いが、その形からいってショートケーキなどの類いでないことは伺い知れた。
中身を見ようと箱に手をかけた武蔵の横に、ヒル魔が自然な動作で近寄り、その肩に肘をかけ軽く体重を預けてくる。
そんな慣れた仕種を気にもかけず、武蔵は上箱を持ち上げた。
シンプルな白いホールケーキに乗せられた苺とホワイトチョコで作られたメッセージプレートに目が吸い寄せられる。

「・・・・・・・・・・・・なんでプレートの文字が平仮名で『むさしくん』なんだ?」
「だって仕方ねぇだろ。まさか三十路ジジィにプレゼントです〜なんて言える訳がねぇ。」
「だからってオマエ、これじゃまるで幼児向けだぞ。」
「グダグダうるせぇ、糞ジジィ。人の好意にケチつけてんじゃねぇぞ。」

少し不機嫌になったヒル魔の横顔へ、武蔵は謝る代わりに軽く唇を落とす。
擽ったそうに首をすくめたヒル魔が一瞬武蔵から離れ、今度は両腕を武蔵の首に回してその髭面を見つめてくる。
キスでもするのかと武蔵が顔を寄せれば、同じ距離だけ綺麗な顔が後ろへ下がった。

「・・・・・・?」
「・・・30ねぇ。」
「なんだよ?」
「ガキん時はたいした老け面とか思ってたけどよ、今見ると案外そうでもねぇな。」

そう言いながらじっと見つめてくるヒル魔の顔から武蔵は目が離せなくなる。
武蔵が30歳になったのならば、当然ヒル魔も同じように年を重ねている。
悪魔だなんだと人から敬遠されているからといって、正真正銘人間で有る限り、不老ではない。
確かに中高生時代のような幼さは消え、大人っぽいと思っていた部分は大人らしさへとすり替わっている。
更に言うなら、艶やかさが増し色気の匂い立つような男に成長している。
もちろんヒル魔は誰でも彼でもにそういった部分を見せている訳ではない。
それでも時折、無意識に滲み出てきてしまう色香に当てられる人間が少なくないことも武蔵は知っていた。

「悔しいか?」
「何が?」
「いつも先に大人になる俺のことが。」
「けけっ、バカじゃねぇの?」
「そのバカ相手に10年以上こんなことしている奴も大概バカ野郎だがな。」

武蔵は何か言い返そうとするヒル魔の口を、自らのそれで塞いだ。
言いたい言葉を塞き止められて、ヒル魔は眉を顰めて咎めるように睨みつけた。
しかしすぐに瞼を閉じて武蔵の侵入を許し、他人の舌を口腔内へと受け入れる。
武蔵が舌で歯列の裏側をなぞりあげると、止めさせるようにヒル魔が舌を伸ばしてくる。
二枚の舌が互いの口腔で押し合い、吸い付き吸い付かれながら絡まっていく。

「んっ・・・ふ、んんっ」

濡れた粘着音と鼻に抜けた甘い息が、武蔵の耳を楽しませる。
戸惑いのないその仕種に、武蔵は喉を鳴らせながら口端で笑みを見せた。
相手のわずかな唇の動きに、ヒル魔は薄く目を開け訝しむように武蔵を見つめる。
それに気付かぬ振りをして、更に口づけを深めようとした武蔵の頭を、ヒル魔が無理やりに引きはがした。

「何が、可笑しい?」
「・・・・・・いや、昔とは大違いだと思ってな。」

ヒル魔の問いに答えながら、武蔵はその濡れて少し熟れた唇に舌先を伸ばす。
敏感になった唇を、軽くなぞられてヒル魔の肩が少し震える。
けれども昔のように羞恥に耐え兼ね赤くなったり、狼狽えて逃げ出そうとはしない。
やはり昔とは違うと思い、武蔵はまた少し笑った。
その様子に気分を害した様子のヒル魔が口を開く。

「テメェだって、昔とは大違いじゃねぇか。」
「・・・・・・・?」

どのあたりのことを言っているのか、見当がつかないという表情の武蔵をヒル魔が強引に引き寄せ、噛み付くように激しいキスをする。
舌を押し込み、合わせる唇の角度を変えるたびにガチガチと歯が当たる。
獰猛なまでに求めてくるヒル魔の様子に驚きながら、武蔵もそれに答えるように深く口付け返す。

「んっ、はぁ・・・・・・んっぐぅ・・・」

狭い隙間が開く度に、空気を求めてヒル魔が喘ぐ。
その下肢からは力が抜けかけ、膝の震えが武蔵にも伝わっていく。
それでも離れようとしないヒル魔の重みに耐えかねて、武蔵は側にあったソファベッドへと崩れ落ちた。
ヒル魔に覆いかぶさられるようにして、武蔵はヒル魔の唇を受け続けた。
そうしてようやくヒル魔は武蔵から離れ、肩で息をしながらニヤリと笑う。

「はぁ、はっ・・・ざまぁ・・・みやがれ。」
「ヒル・・・魔?」
「昔、の・・・テメェは、こんなヤ、ツばっか・・・だったんだよ。」
「・・・・・・・・・・。」

武蔵の腹上で馬乗りになったまま、ヒル魔は荒い呼吸のまま唾液に濡れた薄い唇を舌で拭うように舐めあげた。
あまりに淫猥な光景に、武蔵は思わず咽喉を鳴らして見入ってしまう。
こんなことの出来る男ではなかったのにと、武蔵は右手で自分の両目を覆いまた笑った。
3度までも笑われて、ヒル魔が言葉で武蔵に噛み付く。

「おい糞ジジイ。さっきから、何がそんなに可笑しい?」
「だってオマエよ。ガキの頃はそうでもしなけりゃすぐに逃げ出してただろうが。」
「・・・・・・・・・・?」
「少し触るだけでも嫌がって・・・。逃げないように押さえつけて、こっちだって必死だったさ。」
「っ!?」

言葉に詰まったヒル魔の様子を、武蔵は指の隙間からそっと窺う。
ほんのりと上気した顔にさっと浮かんだ羞恥の赤みを見つけて、懐かしさを覚える。
ヒル魔は何かを言いかけて、結局口を閉じて悔しそうに目を逸らせた。
不意に武蔵の身体を押さえつけていた重みが軽くなる。
顔から手を外して目を向けた先で、ヒル魔がそのまま武蔵から降りようとするので、武蔵はその手を捕まえ引き戻す。

「・・・なんっだよ!」
「煽っといてそのまま放置か?せっかくの誕生日にそれはないだろ。」
「こういうのに誕生日は関係ねぇ。」
「いいから続きやらせろよ。」

チッと舌打ちしながらも、ヒル魔は武蔵の手を振り払おうとはしない。
その様子を肯定と取った武蔵が、ヒル魔のわき腹へと手を忍ばせていく。
直に肌の上を這いずり撫でまわしてくる硬い掌の感触にヒル魔は震える。
そうして這い上がりたどり着いた胸の先で、少し立ち上がりかけた突起に触れ、親指で押し潰すように揉んでいく。

「・・・・・・・・・っ、ん」
「両手、もっと上のほうに着いてこっちに身体寄せろ。」
「・・・・・・・・・・。」

ヒル魔は武蔵の顔に覆いかぶさるようにして、両手をソファベッドへと着き直す。
そうすると、服をたくし上げられ露出した胸の飾りが武蔵の眼前に曝される。
片方を指腹で挟み擽るように弾きながら、もう片方を口に含む。
少しずつ色を濃くし、形を変えていく小さな飾りに武蔵は歯を立て吸い上げる。
頭上で息を呑み、声を押し殺すヒル魔の両腕は震えていた。

「むさっ・・・そこっ、もっ離・・・・・・っせ・・・」
「その姿勢が・・・辛い?」
「・・・・・・・・・うっ、・・・ぁ変なトコ・・・で、しゃべんっな」

執拗に乳首を舐めながら話し掛けてくる武蔵の問いに、ヒル魔はきつく眉をよせて頷く。
そんな素直なヒル魔の様子に、やはり昔とは違うと武蔵は思った。
組敷かれていた身体を反転させ、ヒル魔と入れ替わるようにその細い身体をソファへと押し付ける。
ヒル魔の胸で絡まっていたシャツを脱ぎ取らせ、遮るもののなくなった鎖骨や項へと武蔵は舌を這わせる。
尖った耳に噛み付きながら、空いた手をズボンの中へと押し入れていく。

「んぁっ・・・やぅ・・・あっ・・・」

喘ぎとともに、武蔵の肩に置かれた手が服を掴んで握り締める。
武蔵の手の中では、少し硬くなったヒル魔が握りこまれていた。
濡れた舌先を耳穴に捻じ込みながら囁く武蔵の声に、ヒル魔はまた震えた。

「下取っ払うから手伝えよ。」
「・・・・・・・ふぅっ・・・ん、」

ヒル魔は震える指で、自らボタンを外してジッパーを下げる。
そうして腰を浮かして器用にズボンを下着ごと脱ぎ捨てた。
閉じ込める布を失くしたヒル魔のモノは、武蔵の手によって硬く育て上げられていく。
武蔵とのSEXに惑いうろたえていた昔とは違い、今のヒル魔はその行為に安堵さえ覚えていた。
滴るように流れ落ちる先走りが、手の動きに合わせてクチュクチュと音を立てる。
滑らかになった摩擦はヒル魔が感じている快感を、更に強いものへと変えていく。

「ひあっ、あっ・・・むさっし・・・もうっ・・・ひぅっ!」

ヒル魔の声に答えるように、武蔵が爪をくびれた先の割れ目に押し込んでくる。
その痛みと快感に息を詰まらせたヒル魔は、引きつるような悲鳴を上げて武蔵の手中に白濁とした体液を吐き出した。
瞼を閉じたまま荒く上下する薄桃色に染まった胸に唇を寄せながら、武蔵はヒル魔の左足を抱えあげる。
ヒル魔の精液で汚れた手を、足を拡げて曝された窄まりへと持っていく。
そして指先に滴る白液の滑りを借りて、少し押し込むようにしながら表面の皺をほぐし始めた。

「・・・・・・・ふあっあ・・・んっ、やっ・・・」

爪先で引っかくように孔の中心に触れると、そこはキュウッとしぼんで異物の侵入を拒もうとする。
カリリと掻くたびに、武蔵の下で白い身体がビクつくのを目で楽しむ。
その姿を見つめていると、先程のヒル魔との激しいキスを思い出した。
昔とは違うキスをしていた武蔵に、思い知らせるように噛み付いてきた姿が武蔵の身体を熱くする。

「いつま・・・でも、爪ったてんじゃねっ・・・んあっ!!」

言われるままに、武蔵は指を一本突き立ててヒル魔の内壁を抉る。
軽く抜き差しを繰り返し、緩んできたところで指を増やす。
少しずつ少しずつ、中で広げて肉の絡み付きを確かめていく。
武蔵に抱かれることに慣れきった身体は、簡単にその支配権を武蔵に引き渡していく。
どこまでも頑なで、強引に奪いつくさなければならなかった昔とは違う。
そんなことを考えながら、武蔵はヒル魔に問いかけた。

「昔と違うのは・・・キスだけか?」
「あっ?・・・なっに?んんっ・・・・・・」
「SEXは?」
「全っ然、ちがっう・・・」
「どこが?」
「もっ、焦らす・・・っな!!」
いつまでも触れて欲しい塊に触れてくれない指の動きに、痺れを切らしたヒル魔は握り締めた手で武蔵の胸を叩いた。
武蔵は内壁の一部と同様に、今まで触れずにいたヒル魔の中心へと目を向ける。 そこは一度解放された後、全く触れられていないにも関わらず、いつの間にか形を変え震えていた。

「昔はっ、いつもガツガツしやがって・・・そんな焦らすようなマネ・・・しなかった、だろうがっ」

喘ぐ声の間で、責めるように言われて武蔵はため息をつく。
確かに昔は若さに任せてガツガツしていたとは認める。
思いやりや気遣いというものが出来なかったことも多々あっただろう。
でもそれ以上にヒル魔のことを知らなさ過ぎた。
この十数年をかけて繋げてきた身体は、あの頃と違いその殆どを武蔵は知っている。
逆に知りすぎているといっても過言ではない。
それほどに2人は互いを求め合っていた。
だからといって今の性生活において、別にヒル魔を焦らすつもりはない。
全く無いかと聞かれると、無いと言い切る自信は無いところが少しだけ情けなくも思うが。
その気持ちを隠して武蔵はヒル魔に答える。

「別に焦らすつもりは無いけどな。」
「んっ、嘘、言って・・・じゃ・・・・・・ねっ」
「嘘じゃないって。だってオマエ・・・」
「ひあっ!!やっ、だ・・・やあっ!!」

武蔵はわざと避けていた内壁に埋まる塊を強く押し込む。
散々焦らされ、膨れて腫れあがった前立腺を急に刺激されて、ヒル魔は堪え切れずに二度目の精を吐き出した。

「ほら、な?良いとこ全部分かってるからよ、わざと外しとかねぇともたないだろ。」
「っ!?」

耳を穿りながら言い訳する武蔵に、ヒル魔は起こった顔で弱弱しい蹴りを入れる。
こういう所は変わってないんだがなと、武蔵は思った言葉を飲み込んだ。
それ以上怒らせると、この後の続きは無くなってしまいかねない。
蹴ってくる足首を捕まえて深く胸に折りこむと、ヒル魔の身体はビクつき潤んだ瞳がムサシを見上げてくる。

「もうそろそろこっちも限界だ。」
「あっ、・・・・・・・・・糞ジジイ・・・さっさとブッこみゃいいだろうがッ!!」
「ああ、そうさせてもらう。」
「・・・・・・っ」

窄まりヒクつく孔に、武蔵の塊が押し付けられる。
ゆっくりと先が捻じ込まれ、括れまで呑み込んだところで浅く動かされる。
一気に突いて欲しいのに、いつも武蔵はそうやってヒル魔を嬲る。
それが悔しくて、ヒル魔は声が漏れないように歯をくいしばり、両腕で顔を隠す。

「ヒル魔?」
「うるっせ・・・ふあっ・・・あっ・・・」

そんなヒル魔の態度を見て、まだ誤解されていることに武蔵は少しだけ苛立った。
自分だけが満足すれば良いと思うほど、餓えているわけではない。
互いに気持ちよくなりたいと思うからこそのやり方だった。
時間とともにゆっくりと変わっていくのが人間だというのに、わざわざ過去と今を比べてすれ違う。

「そんなに言うなら、少し我慢しろよ。」
「えっ?・・・あっ、ひぃっ・・・やっ、むさっ・・・だめっ、やっ・・・」

突然激しく突き上げられ、ヒル魔は武蔵の動きに着いていけず嬌声をあげる。
いつもであればヒル魔の中で馴染むまで待ってから動くのだが、今日はそんなことにはかまわず腰を回した。

「やっ、いやっだ・・・やめっ、やだ・・・いやっ・・・ああっ!」

ヒル魔の目から涙がこぼれて頬を濡らす。
それに気付いた武蔵が動きを止めて、涙の後を舐めとっていく。
ヒル魔がそっと目を開けて武蔵を見つめるから、その唇に触れるようなキスをした。

「無茶・・・すんじゃねえ。ぶっ殺すぞ糞ジジィ。」
「悪かった。でもオマエもあんまり昔々言うな。」
「・・・・・・先に言い出したのはテメェじゃねぇか。」
「そうだったか?」

平然と笑う武蔵に腹が立つような安心したような、そんな妙な気持ちを抱えながらヒルマが体内で武蔵を抱きしめる。
締め付けられて少し顔をしかめた武蔵に向かって、ヒル魔はいつもの笑みを浮かべる。

「あんま、焦らされんのは好きじゃねぇけど・・・・・・乱暴なのはもっと腹立つ。その間くらいでうまくやりやがれ。」
「・・・・・・・・・・相変わらず可愛げのないこと言いやがる。」

クスクスと笑いあう声も、動きとともに荒い息と緩やかな喘ぎにかき消された。
そうして少しだけ余裕のある、いつもどおりのSEXが繰り返されていく。
机の上で開けたまま放っておかれたバースデーケーキが、甘く柔らかい香りで2人を包み込んでいた。