Si nascondaqui,e non faccia rumore




この世に存在する全てのものは無機有機に関わらず必ず『はじまり』を持っている。
たいていの場合、はじまりの日は祝い喜ぶために存在する。
人間にとって『誕生日』といわれるその日が、ザンザスにとってはあまり歓迎できるものではない。
ザンザスの誕生日は息子がドン・ボンゴレの落胤だという狂気にも似た妄想を抱いてしまった母親によって無理矢理こじつけられただけなのかもしれない。
そう勘ぐってしまうほどに都合のよい日付だった。
もともと顔すら忘れた母親がザンザスの偽られた出世の秘密をよりリアルにするために言い張っただけなのかもしれないその日付は、ザンザスがその事実を知ったときから忌々しいものでしかなくなった。
それは20年近く経ったいまでも変わらないがここ数年、それとは別の理由で誕生日はザンザスをうんざりさせる日になっている。
ボンゴレ10代目争いには敗れても、対外的にはザンザスはまだボンゴレ9代目の息子で通っている。
周囲にとってザンザスの立場はまだまだ意味のあるものだった。
なにかと口実をつけて取り入ろうとするものもいれば余計な気を回して敵愾心をもつ者もいる。
そういった人間にとってザンザスの誕生日はいろいろな目的に利用できる絶好のチャンスであり10月はにわかにザンザスの周りが騒がしくなる。
そんなただでさえ騒がしい時期に、ザンザスを慕う人間達もそわそわとザンザスの周辺に集まり始める。
地位や権力といったものに下心のある相手であればザンザスがひと睨みすれば大抵は黙って引き下がる。
しかしザンザス自身に下心を持つ人間はどれだけ睨んだところで怯むどころか喜び舞い上がりまったくの逆効果だ。
とくにスクアーロと綱吉のザンザスに対する熱中ぶりは常識の範疇を超えていた。
普段からどちらか片方でもうっとおしいのに、ザンザスが誕生日を迎える10月は2人が同時にザンザスに熱烈なアプローチを暑苦しく繰り広げてくれる。
だからザンザスは誕生月である10月中は意図的に仕事を入れて暇が開かないようにしていた。
しかし実際のところボンゴレ10代目の権力とヴァリアー暗殺部隊体長という肩書きを持つ二人が揃えばザンザスが暇になる状況などいとも簡単に作ってしまえる。
だからといってザンザスには大人しく部屋で二人を待つつもりなど毛頭なく、悪あがきとは思いつつも苛々しながらルッスーリアの元で誕生日が過ぎるのを待っていた。

「どいつもこいつもうぜぇっ!」
「しーっ、もぅボスッたら大声上げたら見つかっちゃうじゃない」
「るせぇっ」
「ぶへっ……いったぁーい」

本気でないとはいえザンザスの蹴りをその身に受けて痛いの一言で済んでしまうあたりはルッスーリアもさすがヴァリアー幹部である。
ぶつぶつと文句を言い続けるルッスーリアを無視してザンザスはルッスーリアを蹴るために下ろした足をまた机の上にドカッと乱暴に置いた。

「せっかくいろんな人がお祝いしてくれるのがなんで気に入らないのかしらぁ」
「祝われるなんざ死ぬほどうぜぇ」
「だってお高くて綺麗なものとかもたくさん貰える日なのにもったいないわぁ」
「向こうはそれ以上の物が欲しいだけの釣り餌だ」
「そうじゃない人たちだっているじゃない」
「目的もなく餌だけばら撒くようなやつはもっと信用ならねぇ」
「もうっ」

結局は無償でも有償でも信用しきれずに拒否をするしかできないザンザスの不器用さにルッスーリアは溜め息をつく。
その溜め息が気に障ったのか、ルッスーリアに向かって重いクリスタルのペーパーウェイトが投げつけられる。
ルッスーリアが避けたペーパーウェイトはそのまま壁にめり込んで止まった。
壁の修理が必要になったと嘆きながら、この状況を早く解消するためにルッスーリアはザンザスの説得を始める。

「でもボスゥ、スクアーロとか10代目の坊やとかからは貰ってあげればぁ?」
「一番いらねぇ」
「だけどあの子達ってきっとボスが受け取るまでしつこく食い下がるわよ」
「……絶対いらねぇ」
「スクアーロはいつでも関係なく迫ってくるだろうし、もうひとりの方はいま受け取らないと3日後にある向こうの誕生日になにムチャ振りしてくるかわからないわ」
「パーティーに行かなけりゃ良いだけじゃねぇか」
「そういいながら毎年連れ出されちゃってるのよねぇ、ぶぎゃっ」

ザンザスのために用意したウィスキーが瓶ごとルッスーリアの頭に命中した。
時々こうしてワザとぶつかっておかないと、引っ込みのつかなくなったザンザスに憤怒の炎を出されかねない。
匣兵器クーちゃんのヒーリングパワーを使いながら、ルッスーリアはこの場をなんとか踏ん張ってみせた。
基本的にオシャレには十分気を遣うルッス―リアなので、活性化の副作用である新陳代謝が目に見えない程度の効果具合を出そうとヒーリングパワーをコントロールする。
それでも徐々に髯の濃くなっていくルッスーリアを眺めながらザンザスはつぶやいた。

「ムサい」
「ボスが怪我させるからじゃないっ」
「くだらねぇこと言うからだ」
「だって手っ取り早く収まるんだからプレゼントくらいその場で貰っといたらいいじゃない」
「あいつらが持ってくるものはセンスが無いから受け取りたくねぇ」
「何もって来るのよ?」
「服だ靴だ指輪だ花束だなんだと女に贈るようなもんばっかりだ」
「はぃ?」

それはさすがに露骨過ぎて贈る向こうも悪いとルッスーリアはサングラスの奥で目を半分に細めた。
もともとザンザスがボンゴレ9代目に引き取られてからは金に苦労なく贅沢に育てられている。
ザンザスのようにセレブな相手には常に身に着けておいても本人も周囲も気にならない程度のものであまり特別なものでないもののほうがすんなりと受け取ってもらえる。
そこらへんの相手に対してするような、恋のマニュアルどおりにただ金をかけて体裁を取り繕えば良いというものではない。
ここはルッスーリアが手本を見せるしかないと同僚と上司達の不器用さに頭痛を感じながらすみに置いていた小箱に手をかけた。

「まぁあの2人はそういったセンスに疎いからボスも大目に見て貰ってあげてよ」
「あいつらからの物はなんもいらねぇ」
「まぁそうピリピリしないで、あんまり怒るからほらエクステの羽だってボロボロじゃない」
「べつに気にしねぇ」
「だめよぉ、夜にはみんなの前に出て一緒にパーティーするんだから新しいのに付け替えさせてちょうだい」
「パーティなんて聞いてねえっ!」
「だって言ったらボス絶対どっかに姿くらましちゃうんだもの、ボスはボスらしく堂々とした姿を下々の者に見せてあげなくちゃ」
「何でわざわざ見世物にならなきゃなんねぇんだっ」
「それにぃ大勢の前ならあの2人だってそんなにしつこくはできないしぃ、案外あっさり開放されると思うんだけどぉ」
「…………」

ルッスーリアの言い分も一理あると、苦虫を噛み潰したような顔でザンザスは口を噤んだ。
ルッスーリアは大人しくなったザンザスの頭から取れかけたエクステを素早く取り外し、こっそりと用意していた新しい飾りを器用に取り付けていく。
新しくなったエクステは頭を動かすたびにザンザスの首の後ろで揺れている。

「今回の飾り部分は真っ白ふわふわのラビットファーにしてみたの、それにクーちゃんの羽もつけたからお酒飲みすぎて疲れた肝臓もヒーリングパワーでばっちりよ」
「チャラチャラしすぎてうぜぇ」
「ほんのちょっとパーティー用にと思ってダイヤモンドとかも入ってるのよねぇ、ボスが嫌なら別のに変えてもいいけどちょうどストック切らしてるからどっちにしろパーティーの後になるわね」
「……出たくねぇ」
「じゃあスクアーロやボンゴレの坊やにいつまでも追いかけられちゃってもいいの?」
「うるせぇっ」

容赦ないルッス―リアの追い込みに、ザンザスの顔がわがままの通らなかった子供のようにむくれていく。
ふわふわでキラキラの装飾品に包まれた幼い表情はあまりに可愛らしく、ルッスーリアはそのエクステを選んだ自分に対して胸の中でガッツポーズを作っていた。
ルッスーリアはそれから数時間後、誕生日パーティーを嫌がるザンザスの身づくろいを手伝いながら何とか宥めすかして大勢の集まる大部屋へ連れ出すことに成功した。
ようやく現れたザンザスのいつもより正装した姿を目にしたスクアーロと綱吉は呆けた顔でザンザスに見入ってしまう。

「ぅ゛ぉ゛お゛いっ、ボスの奴なんか雰囲気違わねぇかぁ?」
「ホントだぁ、なんかいつもより倍増しで綺麗でかわいい気がする」
「ほぉんと誕生日プレゼントのつもりで用意した服も飾りも良く似合ってるし、私の目に狂いはなかったわぁ」
「っ!!」
「っ!!」

ルッスーリアの言葉に、何を贈ってもザンザスには受け取ってすらもらえない2人が驚愕の表情でルッスーリアを凝視する。
驚きと嫉妬と羨望のあまり言葉が出せず口をぱくつかせる2人にルッスーリアは一言だけアドバイスをする。

「ボスにプレゼントを受け取って欲しいなら、それがプレゼントだって気づかせないことねぇ」

目を丸くしたままのスクアーロと綱吉にひらひらと手を振りながら、ルッスーリアは好みの男を探す振りをして2人のそばを離れた。

「ぅ゛ぉ゛お゛いっ、今の意味わかったかぁ?」
「……いまいち」

せっかくのアドバイスも役に立てられないまま2人はいつものようにザンザスにしつこく付きまとい、怒ったザンザスに憤怒の炎で蹴散らされて誕生日パーティーは終焉した。
結局この年の誕生日も2人のプレゼントをザンザスが受け取ることは無かった。
どこまでも鈍いスクアーロと綱吉を哀れみながら、ルッスーリアはパーティーが終わってもしばらく同じエクステを付け続けたザンザスの姿に満足するのだった。


fine