泡 沫

1)
本当に酷い男というものは、一見してそうと分かるものではない。
どんなに女に手を上げようが、ギャンブルに狂って借金まみれになったとしても、それはただの愚かな男でしかない。
本当に酷い男というものは、他人に警戒心を与えるような真似はしない。
人の心にスルリと忍び込んで、その内側からじわじわと腐らせていく。
本当に酷い男というものが、道化に化けるというのは良くある話で。
例えば今自分を組み敷いているこの男のような人間を指すのではないかと、土方は朦朧とする意識の中で考えていた。

「・・・・・・っ」
「なんで副長さんはそんなに強情張るんですかねぇ?」
「ひっ・・・ぐ、ぅ」
「なんかやましいことでもあるの?それ隠してるから我慢できんの?ねぇねぇその秘密、銀サンにも教えてよ。」

男は笑いながら、そのにこやかな笑顔とは裏腹に乱暴な突き上げで土方を追い詰める。
そうして少し息を詰め、土方の中へと欲望の果てをぶちまけた。
排泄口から逆流する異物の感覚に背を弓反る土方の耳元で、これで何回目かなと男が笑う。
何回突っ込まれたのかなど、今の土方にはどうでも良い事だった。
一刻も早く、自身の根元に絞められた戒めを解いて欲しくて、訳も分からず頭を振りかぶる。

「もっ・・・ほど、けっ・・・」
「あー、それ無理。だって土方君もう限界超えてるんでしょ?今解いたら終わっちゃうじゃん。」
「・・・っひぅ!」

たった今、土方の中で萎んだはずの銀時が形を変えてまた自己主張を始める。
こんな状況になってから相手が射精した数は1回や2回ではない。
いったいどこにそんな体力があるのかと、その絶倫ぶりに土方は恐れすら抱いてしまう。
男に抱かれて腹上死なんてごめんだと吐き捨てれば、腹下死だろうと笑われる。

「このッ・・・なんで、んなに元気・・・なんだよッ!!」
「ドーピングしてるから。」
「ッカヤロ・・・・・・」
「だって今日はじっくり付き合ってあげるつもりだもん。慰めて欲しいでしょ?あんなことあったばっかだしさぁ。」
「っ!!」

銀時の言葉で土方は一瞬、身体に溜まり続ける熱を忘れた。


2)
昔、土方の傍で笑う一人の女が居た。
女はそっと目を伏せ、好きだと呟く。
それに背を向け己の信じる道を突き進んだのは、その先に女の幸せもあると信じていたから。
いつも殺伐とした世界で生きてきた土方に、今も昔もその生き方を変えることは出来ない。
自分の命以外を背負って進めるほどの甘ったれた人生を送るつもりも無い。
寧ろ自分の命すら、晒して獲物をおびき寄せる。
守るものなど無いほうが身軽で自由に生きられる。
そういう生き方を土方は好んでいた。
だから土方の人生に付き合うことの出来る特別な人間が存在するならば、他人の背中で隠れているような相手では駄目だった。
自分の命すら守る気のない人間が、誰かを守ることなんて出来るわけがない。
だからあの女の気持ちを知った時、予想外に高鳴る胸を押し殺して背を向けた。
きっとたぶん惚れていたんだと思う。
今もその気持ちは変わらずに、土方の一部として脈打っている。
たとえ交わることが無かったとしても、一時でも互いに同じ気持ちを抱えていたことがある。
土方にはそれだけで十分だった。
それまで生きてきた色の無い世界が少しずつ着色されていくような、そんな不思議な感覚を女は与えてくれた。
そんな女に土方が出来ることはただ一つ、女が普通の幸せを掴める様な世界を作る事。
そしてその世界が一生続くように、我が身を差し出し命を懸けて戦い続ける事。
信じる道に出来たもう一つの大義名分だった。


私を置いていくんだもの
浮気なんてしちゃダメよ
きっと自分の道を貫いてくださいね
きっと・・・
きっとよ・・・・・・


耳奥にしがみ付いて離れない女の声が頭の中で反響する。
振り返りはしなかったから、どんな顔をしていたのかはわからない。
その姿を記憶に焼き付けるなら、女の顔は笑顔が良かった。
だからそれ以外の顔を記憶に留める事を背中で拒絶した。
壊れたレコードのように、記憶が女の声を繰り返し再生する。


3)
土方は、弄られ過ぎて痛みも快感も通り越した胸先をきつく捻られる。
ジンジンとただ痺れているだけのそこは、刺激をそのまま脊髄へ流し込み反射のように内壁を収縮させた。
そうなると体内は当然のように銀時を抱き込んでしまい、その硬さや大きさが脳へとリアルに送られる。

「い・・・ってぇ。名器なのは分かってるからさ、もうちょっと優しくしてよ。」
「ぅ、ぐ・・・んっ・・・・・・ふざけ・・・んぁっ」
「ふざけて無いからさぁ、土方君も集中してよ。」
「んんっ!!」

気を散らせていたお仕置きとばかりに、銀時が腰を回して一定だったリズムを変えた。
土方の下腹部で、これ以上はありえないほどに膨らんで反り上がったモノの先端から白濁し体液が滲み出てくる。
縛られ堰き止められている欲望を吐き出したくて、腹立ち紛れに天パのかかった白い髪を鷲掴む。

「イテテテッ!!ちょっと禿げたらどーしてくれんのッ!!」
「・・・・・・そっちこ・・・っそ・・・使いっ、モンにならなく・・・・・・な、ったら・・・どーす・・・だっ」
「いいんじゃないの?俺専用だし、勃たなくなっても別のイキカタ仕込んであげる。」
「テメッ・・・やぁっ!!」

あまりに張り詰めすぎて行き場を失った土方を、銀時の手が擦り上げた。
既に体中どこを触られても苦痛でしかない。
苦しいだけの感覚なのに、土方の内壁が小刻みに痙攣する。
瞼の奥で白い火花が飛んで消えた。
達っしきらずにイかされる中途半端な終わり方に涙が滲む。

「ほら、銀さんこういうのも実は上手いからよ。」
「もっ、や・・・め・・・・・・頼っ・・・から」

恥も外聞のかなぐり捨てて、土方は力の入らなくなった両腕で銀時にしがみ付いた。
意識の混濁した状態で、ただ浅ましく最後をねだる土方の姿は銀時を興奮させる。
銀時は咽喉の奥で笑いを噛み殺して土方に口付けた。

「仕方ないなぁ。コレ外したげるけど、銀もじゃのついた男前な暴れん坊にもきちんと付き合ってよ?」

恩着せがましい銀時の言葉に、土方は反論する余裕もなく息を荒げて頷く。
それに気を良くした銀時は眼前の黒髪を撫でながら、獲物が逃げないようにと白い両足を抱えて押さえ込んだ。
始めはゆっくりと浅く、徐々に深さを増して内壁を抉るように内壁を押し広げていく。

「ひぃあっ!ぁあっ!!・・・・・・やっ、イキた・・・ぃ、イッかせ・・・銀とっ!!」
「はい、はい・・・。」
「早っく・・・も、ヤッ!!あっ・・・ふぁっ」

土方の身体に打ち込む腰を止めることなく、銀時は2人の隙間に器用に手を伸ばす。
縛っていた紐を引かれ、肉に食いこむ痛みが土方の涙を搾り出す。
数回分の欲望を堰き止めていた箇所が乱暴に取り払われ、土方は掠れた悲鳴を上げて射精した。
勢いのついた土方の欲望は、全てを吐き出そうと何度も跳ね上がる。
白濁とした体液が、銀時の突き上げる動きに合わせて吐き出されていく。
土方の双眸は既に焦点を失い、口からは荒い息と嬌声が混じりあいながら涎となって垂れ流される。
柔らかい肉の絡みつく体内に、銀時が何度目かの白液を吐き出した頃、土方の意識は手放されていた。


4)
どこか遠くで囁く声がする。
何を言っているのか聞き取りたいのに、意識を向ければ向けるほど声はかき消されて霧散していく。
その声は、甘く切なく土方の胸をざわめかせる。
決して叶える事の出来ない願いが自分の不甲斐無さを攻めたてる。
あまりに悔しくて、情けないほど涙が溢れた。
急に別の声が聞こえた。

『泣いてんじゃねぇよ。銀さん以外に泣かされる土方君なんて、もう鬼の副長じゃないからね。』

鬼の副長じゃないならなんだよと、声に向かって叫んでみる。

『泣き虫だね、ムシムシ。うん、今日から真撰組副長は泣き虫弱虫土方君でいいんじゃない?』

ふざけんなよ、馬鹿じゃねぇのか叩っ切るぞと怒鳴り返す。

『そうそう、銀さんの副長さんはやっぱりそうでなくっちゃね。』

声がまた遠くなる。
もう少し喋っていたい気もしたが、重たくのしかかる眠気に負けて土方はまた意識を手放した。




スゥスゥと寝息を立てる土方の頬を、銀時は撫で擦りながら耳元で囁く。

「おーい、土方くーん。また寝たの?寝ちゃったの?鬼の寝太郎っておでこに書いちゃうよ?いいの?」

土方は煩いといわんばかりに眉をしかめて少し唸る。
可愛ささえ感じられる寝顔をしばらく見つめて、銀時は白い頬に顔を寄せて涙の痕を舐め取った。
塩気が薄まりながら口内に充満する。
女なんてやめておけばいいのにと銀時は恨めしそうに鬼の副長を睨む。
土方の前に昔の女が現れた時、その空気に愕然とした。
その女はすぐに死んでしまったけれど、もしかしたら今でも好きだったのかもしれない。
そう思った途端に箍が外れた。
土方に必要なのは、守られる存在なんて甘っちょろいものではない。
どんな時でも振り返る気なんか起こらないような相手がぴったり来る。

「たとえばこの銀さんなんてどう?最優良物件だと思うよ〜。」

返事の無いまま土方は眠り続ける。
その寝顔を眺めているうちに、半開きだった銀時の瞼がだんだん重くなる。
このまま片付けもせずに眠ったら、きっと目が覚めた時に殺される。
分かっているのに耳元で規則正しく聞こえる寝息は、どんな羊の数を数えるよりも強力だった。
とりあえず土方君より先に起きられますようにと神様にお願いしながら、銀時はその瞼を完全に閉じきった。