ドッペルゲンガー 1

<影絵一枚目>

眠っても眠っても、休まる気のしない身体がけだるくてイライラする。
原因も何もかも全てわかっているから余計に始末におえない。
今日もまた重いまぶたを開いて辺りをうかがう。

「……………またか。」

一人暮しのはずなのに何故か自分の隣にタオルケットのふくらみが一つ。
うんざりした様子で頭を掻いて、ため息を一つついたムサシはそのふくらみに手を伸ばす。
タオルケットを少しずらしてその中身を確認しては、またため息一つ。

「今度は男かよ………。勘弁してくれ。」

知らない間に隣に誰かがいたなんてことはもう日常茶飯事で、驚く気にもなれないムサシであった。
たとえそれが一糸纏わぬ男であったとしても。

「………んっ。」

中身の男は少し身じろいでムサシのほうヘと寝返る。
ムサシは初めて見るその顔に少し息を呑む。
確かに男のはずなのに、とても綺麗な寝顔で何となく目が離せない。
『今回のはまぁマシなほうか』と重たい頭で考えていると、男が急に薄く目を開ける。

「………ふぁっ…ん〜………?……おう、おはようございますか?糞エロ………タケクラ?」

そう言ってあどけなく微笑む寝ぼけた瞳に向かって、ムサシは眉をひそめる。
今は一番聞きたくない名前タケクラ。この身体に住むもう一人の自分、それがタケクラだった。
多重人格といえば聞こえは言いのだろうが、自分の場合はまるで本当に二つの魂が誤って一つの肉体に押し込められたかのようにはっきりと分かれてしまっている。
昼は今の自分ムサシとして生き、夜は傍若無人な夜の帝王とも言われかねないタケクラ。
この寝ぼけた男を連れこんだ張本人である。

「どうした?タケクラ……」

不思議そうに見つめてくる一夜限りの恋人に、今朝何度目かのため息をつきながら立ち上がり、重い口を開く。

「する事は済んだんだから出ていってくれないか?疲れてるんだ。」
「あぁ?」

綺麗な眉が跳ね上がり思った以上に魅惑的なまなじりがきつくなる。
毎回タケクラの尻拭いをさせられる事に辟易しているムサシはいつものように冷たくあしらおうとする。
こういう相手は怒らせて出ていかせるのが一番だと経験からわかっている。

「ふざけんなよッ!!糞ッ!!」

相手もムサシに合わせるように立ちあがり怒りに任せて蹴り上げてくる。
飛んでくる蹴りを軽くかわしてその細い足首を捕まえ、その膝を折り曲げる。
ここまでは予想の範囲内だった。

「………っ!?………離っ…せ!!んんッ…」

急に相手の身体がこわばりなにかを我慢するように震え出す。
一体どうしたのかと足元に目をやると、粘性の薄れた不透明のモノが支えに使われているもう片方の白い足を伝うのが見えた。

「さっ…さと………離しやがれ!!」

ドカッ!?

掴んでいたはずの足はいつのまにかその枷を解き、不意をついてムサシを蹴り倒す。
相手のほうも支えを急に失ってその場に崩れ落ちる。

「糞ッ!!だから中は嫌だっつっただろうが!!好き勝手しやがってっ!!!おいっ風呂どこだ?風呂っ!!!」

相手の剣幕におされ、思わず浴室の方を指差すムサシであった。
男は軽く舌打ちすると立ちあがって壁伝いに指の先へ進む。歩く度に後孔から溢れそうになるのはたぶんムサシの精液に違いない。
この場合はタケクラの、というべきか。
よく見るとさっきの蹴りが良く出たものだと感心するくらい足元はふらつき、途中何度か座りこみそうになっている。
手を貸したほうが良いのかどうか一瞬悩むムサシであったが、先ほどの恐ろしくいやらしい映像が頭から離れず、一応正常な男としてはたぶん手を貸すだけでは済まないことも悟っていたのでただ眺めるだけにした。

「………はぁ〜〜〜……」

男が浴室へ消えると、ムサシは本日最長の大きなため息をつき、片手で顔を覆ってきつく目を瞑る。
そしてこれから自分の身に降りかかる災難に思いをはせるのであった。