ドッペルゲンガー 2

<影絵二枚目>

勢い良く流れるシャワーの下で、さっきまで恋人同士だと思っていた男からの冷たい言葉に混乱する頭を叱咤しながらヒル魔はタケクラとの事を思い出す。

出会いは3ヶ月前。何となく夜の散歩と称してフラフラと出歩いていた時の事だった。
人通りの途切れた深夜のショッピングモールで、いつもの散歩コースを普段と変わり無く通りすぎるはずだった。

「………うわっ!!」

突然誰かに強く腕を掴まれ引き寄せられる。
バランスを崩したヒル魔は固い石畳に身体を叩きつけられる覚悟をしたが、到達した先は生暖かくがっしりとした男の腕の中であった。

「っ!!なんだっ、てめぇは!?」
「こんな夜に一人で何してるの?俺タケクラって言うんだけど、暇だったら俺と遊ばない?」

そんな使い古された誘惑の言葉を吐きながら見知らぬ男が笑う。
まるでどこかのホストかと思うようないでたちで、ヒル魔は嫌悪感すら抱きそうになる。

「とっとと離してどっか行け!この糞変態。」
「そんなこと言わないでよ。俺アンタに一目ボレしたみたいなんだからさァ?」
「はぁ?ふざけんなッ!!」

ヒル魔はそう言うと、この薄ら寒い男に蹴りを食らわして岐路に着いた。
それで終わったと思っていたのに、翌日からも男は毎晩この散歩コースに姿を現すようになった。
会うたびに口説かれて始めはうっとおしがっていたヒル魔であったが、会話を交わすうちに徐々に親しくなっていった。
そして口説きに口説き落とされて一ヶ月後、ヒル魔はタケクラの気持ちに応えるようになっていた。
そこからまた一ヶ月かけてタケクラは慎重にヒル魔を落としていった。少しづつ少しづつヒル魔が焦れて、自ら寄って来るように仕向けるのなどタケクラにとっては造作の無い事に違いなかった。
肉体関係を持ってからここ最近の一ヶ月で、タケクラは自分の身体に馴染むようヒル魔の身体に色々な事を教えこんでいった。

「テメェは何で夜だけしか逢いに来ねぇんだよ!!毎回だぞっ!!」

そう言って不安そうな瞳を不機嫌な表情に隠して睨みつけてくるヒル魔にムサシが誘った。

「じゃぁ、今度泊まりに来るか?」
「………………行ってやっても良いぞ!」

こんなに簡単に、のどから手が出るくらい欲しがっていた言葉を目の前に放り投げられて戸惑うヒル魔を知ってか知らずかタケクラが意地悪く笑う。
負けず嫌いのヒル魔が上手にのってきやすいように緩やかに罠をはる。

そして今、 タケクラお得意の嵌め技にまんまと引っかかってのこのことやって来たその代償がこれかと、身体中に残った情事の後を視界から外しながら、力の入りにくい足に舌を打つ。
次の瞬間また体内からこぼれる感触に身を竦ませる。

  『困らないように自分で後始末出来るように覚えろ。』

そう言って何度も自分を嬲る男との行為が頭をよぎる。
中出ししなければ良いだけの話なのにといつも抗議するが聞き入れてもらえずに流される。
まさかそれが本当に役立つなんてと唇を噛み締めながら恐る恐る後孔へと手を伸ばす。

「…ッ………んっ…」

クプンと音を立ててひとさし指が飲み込まれる。
思った以上に簡単に自分の指を飲みこむその柔らかさに今更ながら羞恥を覚える。
指をもう一本挿し込んだと同時に、また中から精液が零れ落ちて指を汚していく。
たまらずゆっくりと崩れ落ちるように膝をつく。

「ハァ………。ん、ふっ………」

ゆっくりと、挿し込んだ指を広げて穴を開く。
コポリという耳障りな音と共に今度は大量の精液の残骸が掌に零れ落ちる。

『そうそう、ゆっくりと開いて掻きまわしてみな………』

男の声が耳の奥にこびりついて離れない。
その声に従うようにヒル魔は緩慢に指を蠢かし出した。

「………ふぁッ……うっ、く……」

わざと避けていた部分に自分の爪が触れる。
思わず出た自分の声が浴室に反響してまた顔が赤くなる。
すでに反応を示す自分のモノに気付くと、後ろめたさを感じながらももう一方の手で握り締め扱き始める。
前と後ろを同時に嬲りながら、頭の中ではタケクラに犯される妄想を抱く。

「んあっ、はっ…はっ……………っ!!」

手早く射精を済ませてもう1度強く体内を抉る。
まだタケクラの置き土産が残っている気もするのだけれど、これ以上は一人では無理かと諦め指を引き抜く。
少し浅くなった呼吸を整え頭や身体を洗い始めた。
さっきまでの行為全てを洗い流すよう乱暴に擦りながらもう1度あの言葉を思い出す。
やったら出ていけなんて付き合ってから今まで言われた事など1度も無かった。
まるで行きずりの身体だけの関係だと言われたようで酷く胸が痛んだ。
顔を合わせる勇気が無くていつまでもシャワーに打たれていたかったが、そういうわけにもいかず、意を決して部屋へ戻る。
そこにはいつものように笑うタケクラの顔があるかもしれないとも、まださっきと同じ仏頂面かもしれないとも思った。
しかしそこにはだれもいなくて、紙切れが一枚足元に落ちているだけだった。

【鍵はオートロックなのでそのまま出ていってくれ。】

何の気持ちも込められていない文字の羅列に、思わず握り潰してそのまま壁に投げつける。
また頭が混乱してきて不安で泣きそうになる。

「何だってんだっ!糞っ!!糞ッ!!!」

昨日までの幸せに暗雲が立ち込めていた。