恋するムサヒル @

おねだりハニカミ:ムサシがヒル魔に今して欲しいことを自由にリクエスト

ヒル魔とムサシは手にした小さなキャンディーを見つめている。
包装袋に書かれた文字は『おねだりハニカミ』、裏返して見た先には『相手に今して欲しいことを自由にリクエストしてね。』

「なんだ、こりゃ。」
「書いてるまんまだろ。」

ヒル魔の質問にムサシは事も無げに答えた。
そしてムサシはピッと袋を破り、中からでてきたキャンディーの色にヒル魔が顔をしかめる。

「......最悪じゃねぇか。」

思わずヒル魔の口からうめき声が漏れた。
ムサシの手のひらで転がったキャンディーの色は黄色。
つまりヒル魔はムサシが今して欲しいことを実行しなければならなくなったというわけである。

「さて、何をしてもらおうか?」
「テメェ......ロクでもないことなんか言ったりしてみやがれッ。マジでぶっ殺すぞ。」
「それじゃルール違反だろうが。」
「......うるせぇっ。」

ムサシのあまりにも正論な言葉にヒル魔は悔しそうに俯いた。
これはただのゲームで、けれども遊びとはいえ実行拒否の不可能なゲームでもあった。
ムサシはヒル魔におねだりする権利を与えられ、何にしようかと頭をひねった。
その様子にヒル魔は何を言い出されるのかと内心ビクついてしまう。
どうせムサシのことだから、思春期らしく下品なリクエストなんかを持ち出してくるに違いない。
もし言葉端にちょっとでもそんな様子が窺えたなら、いつでも引き金が引けるようにとヒル魔は銃を握り締めた。
警戒するヒル魔にムサシが口を開く。

「決めた。おいヒル魔、今すぐ俺に甘えろ。」
「.........は?」

ヒル魔は意味がわからずキョトンとムサシを見つめた。
そんなヒル魔の様子にムサシは至極真面目な顔でもう一度告げる。

「ほら、甘えてこいよ。」
「なっ...わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇ!!頭腐ってんのかこの糞老け顔ッ!!」

ようやくムサシの言葉を理解したヒル魔は、顔を真っ赤にしながら怒鳴りつけた。
今まで捻くれ者で通ってきたヒル魔である。
反発こそすれ他人に甘えるなどといった行為はほとんどしたことが無い。
いくら相手がムサシとはいえ、そんなリクエストが素直に出来るわけもなくヒル魔はたじろぎムサシを威嚇する。
真っ赤になって虚勢を張るヒル魔の姿に、ムサシは笑いをこらえながら更に念押しする。

「別に無理難題なんて言ってないだろうが。それとも甘えるなんて恥ずかしくて出来ないか?」
「......糞ッ!!やりゃいいんだろうっ、たかがゲームじゃねぇかっ...。」

ヒル魔は言葉を吐き捨て、凶暴な顔をしながらムサシに近づいてくる。
そしてムサシの背後に回り、ジャンバーの裾をキュウッと摘まんだ。
ムサシはヒル魔がどんな風に甘えてくるのかと、期待しながら次の行動を待った。
しかし一向にヒル魔からは次の動きが感じられない。
いつまでたってもムサシの後で裾を引っ張ったままのヒル魔に痺れを切らしたムサシが声をかけた。

「???......ヒル魔?」
「もういいだろっ!二度とこんなことさせんじゃねぇッ!!」
「イテッ!!」

ヒル魔はムサシが振り向く前に、その尻にいつもの乱暴なキックを一発お見舞いして走り出す。
いきなりのことにバランスを崩したムサシはヒル魔を追いかけるタイミングを失ってしまった。
振り向いた時にはヒル魔の姿は大分離れていて、蹴られた箇所を撫でながらムサシは掴まれ少し伸びたジャンパーの裾に目を留める。

「......この程度で甘えたつもりか?」

ムサシは言葉にして呟いてみたものの、今のヒル魔にはこれくらいが精一杯なのだと本当はわかっていた。
ヒル魔はいったいどんな顔をしてジャンパーの裾を掴んでいたというのだろうか。
甘えるのに慣れていないヒル魔のことだから、きっと耳先まで真っ赤にしながら必死だったに違いない。
そんなヒル魔の姿を想像しながら、ムサシは思わず緩みかけた口元をそっと手で覆い隠した。