恋するムサヒル A

逆ハニカミ:ヒル魔がムサシに今まで秘密にしていたことを1つだけ告白


ヒル魔とムサシは手にした小さなキャンディーの包みを見つめている。
包装袋に書かれた文字は『逆ハニカミ』。
裏返して見た先には『相手に今まで秘密にしていたことを1つだけ告白してね。』

「これって黄色いアメならムサシが告白して、赤いアメだったらオレが告白ってことか?」
「そうなるんじゃねえか?」
「......なんか...当たっても外れた気分じゃねぇか。」
「たかがゲームなんだから、そう言うなって。」

ムサシは嫌がるヒル魔を宥めながら包装袋に指をかけた。
何の戸惑いも無く袋を破こうとするムサシの動きにヒル魔が慌ててストップをかける。

「ちょっ...待ちやがれっ。なんかこれって不公平じゃねぇのか?」
「何が?」
「この糞ジジィっ。テメェの秘密ってなぁオレのに比べたらどんくらいのモンなんだ?」

ヒル魔の問いにムサシは少し考える。
確かにヒル魔の言うとおり、あらゆる秘密を生業にしているような人間と、何一つ隠す気のない自分ではいささか不公平な気もした。
けれどもし、この手の中に握られているキャンディーが赤ければヒル魔の秘密を1つ暴くことが出来る。
それは付き合いの長いムサシにすら秘密にしているヒル魔自身を知ることでもあり、結構魅力的な質問でもあった。
そこに気付き、好きな相手のことをもっと知りたいという欲求に駆られたムサシは平然と嘘をつく。

「.........モノによるな。」
「たいしたモン持ってるわけもねぇのにフザケんなっ!!」
「まあまあ、アメが黄色けりゃ構わんだろ。それとも可愛くお願いしてみるか?『これは無しにしてくださぁい。』って、腰振った媚付きでな。」
「なっ...ブッ殺されてぇのか糞ジジィ!!......チッ、サッサと開けやがれ!!」
「ただのゲームだしよ、本気で言いたくないこと聞き出そうとは思わねぇよ。」

ヒル魔の気を宥めながらムサシは再び包装袋に手をかけた。
コロンと飛び出たのは赤いキャンディー。
それを目にした途端、ヒル魔の顔に不機嫌さが積もっていく。

「ほら見やがれッ!やっぱりオレじゃねぇかッ!!」
「まぁこればっかりは運だしな。で、どんな秘密を教えてくれんだ?」
「っ!!テメェ....さっきと言ってること違うじゃねぇか...。」
「それはそれ、これはこれだ。」
「......ぅう......。」

ヒル魔はイラつきながらも頭の中で、失ってもいい秘密とそうでないものとをより分けていく。
なくしてもたいした損失にはならないであろう秘密。
尚且つ、自分の目の前で勝負に勝ち誇る男の顔に、敗北の表情を浮かべさせることの出来る秘密。
考えに考えてヒル魔は秘密を1つはじき出した。
そしてムサシに向き直り、意地悪な笑みを浮かべながらヒル魔はその口を開いた。

「オレ、男と付き合うのはテメェが初めてじゃねぇ。」
「そんなこと知ってるぞ。」
「へぁ?」

不快な表情に歪むムサシを想像していたのに、当のムサシは表情1つ変えずにヒル魔の告白を受け流す。
予想だにしなかった反応に、ヒル魔は唖然として思考が一瞬止まる。

「何だ、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔しやがって。」
「だってテメェ...なんでそんなこと知ってやがんだ?」
「犯やりゃあわかるよ。」
「......っ!?」

ムサシのあまりにストレートな物言いに、ヒル魔の頬が赤く染まる。
それを眺めながらムサシは苛立つ感情を腹の奥へと押さえ込む。
ヒル魔が自分以外の誰かと付き合っていたことが面白くないわけが無い。
もちろん薄々感づいてはいたことだが、本人の口から初めてじゃないと告げられるとつい追求してみたくなる。

「それで?相手は阿含やキッドとかその辺りだろう。」
「だからなんで知ってッ!!あっ...」

ヒル魔は慌てて自分の口を塞ぐ。
そうしてそろりと窺ったムサシの目は暗く濁り、ヒル魔に身の危険を知らせてくる。

「どれもこれも秘密になってないな。それじゃルール違反だし、そうだな。じゃあこっちが聞きたいこと答えてみるか?」
「はぁ?」
「絶対俺が知らないこと。」
「......なん...だよ?」
「あいつらにどうやってご奉仕したのかバラせよ、デモンストレーション付きでな。」
「...っ!!」

ムサシからのセクハラまがいな要求に反抗しようにも、今のヒル魔では分が悪すぎる。
どんな相手であろうといつもは簡単に手玉に取れるヒル魔であったが、さすがに今はムサシがそれを許してくれるとは到底思えない。
何とか逃げ出す算段を弾こうとしながら、その反対側で既に観念してしまっているヒル魔がいた。
固まったまま動けないでいるヒル魔に向かってムサシが声をかける。

「おい、ヒル魔。」

経験上こういったときのムサシは非常に扱いづらく、ヒル魔は覚悟を決めた。
しぶしぶ近寄ってくるヒル魔を見ながら、ムサシは今夜のお仕置きを考え始める。

「......だから嫌だっつったのに。」

今更言っても仕方のないボヤキをこぼしてヒル魔は大人しくムサシに捕らえられるのであった。