恋するムサヒル B

ハニカミプラン(ハニカミ度A):ムサシはヒル魔の凝った肩を揉んであげる


ヒル魔とムサシは手にした小さなキャンディーを見つめている。
包装袋に書かれた文字は『ハニカミプラン:ハニカミ度A』、裏返して見た先には『相手の凝った肩を揉んであげてね。』

「おい糞ジジイ、『ハニカミ度』って何だ?『A』ってどの程度ハニカんでやがんだよ。」
「俺に聞くな、俺に。わかるわけねぇだろうが。」
「......まあ、内容は別にどうって事ねぇし。早く色見ようぜ。」
「おう。」

包装袋からコロンと出てきた黄色いキャンディーを見て、ヒル魔がケケケと笑った。
ヒル魔はムサシの掌で転がる小さな黄色いハートをつまみ上げ、光にかざし反射させてみる。
次にヒル魔はムサシの口に小さなアメ菓子を放り込み、クルリと向きを変えて座り込んだ。

「さあ、揉んでもらおうじゃねぇか。ケケッ」
「............3分間だからな。」
「一回百円〜ってヤツか?どこのオンボロマッサージ器だ、いいから早く揉めよ。」

上機嫌なヒル魔の様子にムサシは息をついて、その両肩に手を乗せた。
そして昔父親にしたように親指に力をこめる。

「いってぇ!?...この下手糞っ!!馬鹿力入れりゃあいいってモンじゃねぇんだぞ。」
「ああ、ワリィ。」
「デビルバッツQBの貴重な肩だっての忘れんな、もっと丁寧に扱いやがれッ!!」
「ヘイヘイ。」
「チッ、......ったく。」

ヒル魔は舌打ちし、ぶつくさ文句を言いながらもムサシの手を払い除けようとはしなかった。
ムサシはその様子に苦笑しながら、今度は少し弱めに力を入れる。
気を使いながら触れるヒル魔の肩はこの一年でだいぶ引き締まったとはいえ、それでも標準の高校生に比べると逞しいとはいえなかった。

「.........。」
「...?おい、糞ジジイ。やる気あんのかよ?手ぇ止まってるぞ。」
「あっ?......あぁ。」
「サボって3分とか言ったらブッ殺すかんな。」
「わかってるよ。」

ヒル魔に言われてムサシは自分の手が止まっていたことに気付く。
ムサシは再び肩揉みをしていく振りをして、ヒル魔の肩の細さを確かめた。
その細さを再確認し、今までどれだけのモノを一人でここに乗せてきたのかと、ムサシはこっそり溜息をつく。
自分がデビルバッツを離れなければ、少しはその荷を肩代わりできたのだろうかと自問してみる。
デビルバッツへの責任を負う事の出来ないでいた自分に対する苛立ちと、時同じくして何不自由なく純粋にアメフトに全てをつぎ込んでいたヒル魔への憧憬と嫉妬が思わず指に力を込めさせた。

「ってぇ!!この糞馬鹿ジジイ!!喧嘩売ってやがんのか?」
「バカヤロウ、お前の肩が懲りすぎてんのが悪いんだろうが。加減してたんじゃちっとも効きやしねぇ。」
「ぁあ?......しかたねぇだろ。」
「パソコンのやりすぎだ。」
「ほっときやがれ。」

ムサシは今考えていたことをヒル魔に悟られたくなくて、乱暴にヒル魔の肩を揉んでいく。
イタイイタイと怒りながら、それでもヒル魔は肩揉みを止めさせようとはしなかった。
ヒル魔は結局いつでもムサシに甘い。
こういう時、ムサシは自分がとてつもなく子供な気がして自分が嫌になる。
そんな気持ちを打ち消したくて、ヒル魔の肩をムサシが後から抱きしめた。

「......肩揉みはどうしやがった?でかい図体して甘えんな、糞老け顔のくせに。」
「うるせぇ、どっかの意地っ張りなバカヤロウを甘やかしてやってんだよ。」
「.........3分過ぎてるぞ。」
「黙って甘やかされてろ。」

ヒル魔はフンと鼻息をついてムサシの好きにさせた。
普段は横柄で何もかも見透かした大人のような態度を取るムサシが、時折ヒル魔の前でだけ弱くなる。
今ムサシがどんなことを考えているのかは正直よくわからない。
けれどもいつものように、くだらない事で自己嫌悪に陥っている位は察しがついていた。

「余計に肩凝るっつーの。」
「だったらまた揉んでやるよ。」
「『肩たたき券』ならぬ『肩揉み券』でも作っとくか?」
「だったら『尻揉み券』のほうが...」

ムサシの言葉が終わる前に、その頭に小銃が当てられていた。
ゴリッとした感触をこめかみに受けながらムサシは両手を上げ、ヒル魔から離される。

「人が甘い顔してやりゃあ......。いい気になってくだんねぇ事言いやがって......。それなりの覚悟は出来てんだろうな、糞エロジジイ君。」

カチリと安全装置が外される音と冷ややかなヒル魔の声。

「ドーモ、スミマセン。」

ふざけたような棒読みの台詞を吐き出すムサシの顔は、いつものふてぶてしさを取り戻していた。
その表情を読み取って、ヒル魔は心の底から笑みを浮かべて引き金を引く。
銃弾はムサシの頬をかすり、壁に穴を開けた。

「ぅおっ、危ねぇ!!マジで撃つヤツがあるかッ!!」
「うるせぇっ!!つけあがんのも大概にしやがれっ!この糞ジジイッ!!」

的を外したヒル魔は早々とトリガーに指をかけていく。
今さっきまでの甘く重苦しい空気はいつの間にか和み、ぎゃぁぎゃあと喚く2人の声と銃声が辺りに響き始めていた。