通信販売恋慕情 9

メロディ:9  ♪……お味はいかが?♪
        ♪また来てね♪


「このっ糞エロっ!糞変態っ!!糞ジジイっ!!!」
「あ〜、はいはい。わかったから蹴るのはいいかげんやめろ。」

ヒル魔は容赦無くムサシさんの背中を蹴り上げながら悪態をつきます。
ムサシさんのほうもいつもなら適当な所で止めさせようとするのですが、今回だけは思いあぐねている様子です。
ヒル魔がいくら蹴り上げようと、起き上がれないくらい弱った足腰ではムサシさんの怒りを買う事はできません。
それどころかヒル魔のキック力を奪ったのは昨夜の自分だという事実に、起こる気力も失せて思わず顔がにやつきます。

「ニヤニヤすんなっ!!糞ヒゲオヤジっ!!!」
「んっ?あぁ、ヒゲ出てるか?」

思わずムサシさんは自分の顎に手をやり、そのざらつきを確かめます。
たった一晩の短い時間だというのに、確かに生えてきているヒゲに眉をひそめながら、ムサシさんはその軽くなった腰をあげて洗面所へ向かおうとします。

「おいっ!!どこいくんだ?」
「んー、ヒゲ剃ろうと思って………って、うわっ!!」

ヒル魔がいきなりムサシさんの足を掴み、バランスを崩したムサシさんが倒れこみます。

「っあっぶねぇなあ!何するんだ!!………??おい、ヒル魔?」

ヒル魔がムサシさんの腕にしがみつきます。
そして真っ赤に染まった顔を不安に曇らせながら、目線を逸らしたまま言うのです。

「そのままに………しとけよ。なんで急に小奇麗にするんだよッ!!」
「はぁ?何言ってんだ?ヒル魔??」

ヒル魔は小奇麗なムサシさんが嫌いです。
ムサシさんの事は好きなのですが、小奇麗なムサシさんはどこか別人のようで、さっきまで消えかけていた胸のモヤモヤを増やされてしまうのです。

「ヒゲ、生やしたままにしとけっ!!」
「はぃ?んな事言ったて、ヒゲ伸ばしていたらお前の顔とか身体とかしょっちゅうこすれて赤くるだろうが?」
「………。たったそれだけの理由で剃ってたのか?」
「それだけってお前、人がせっかく気を使ってだなァ……」
「っ!!とっとと仕事いけっ!!!そのまま小汚くして行ってこいっ!!!」

しがみついていたかと思うと、急に暴れ出してムサシさんを追い出そうとするヒル魔が理解できず、ムサシさんはヒル魔をいっそこのまましゃべれない状態にしてやりたくなりました。
それでもさすがに昨夜の所業を思うと休ませてやらなければとも思い、慣れない手つきでヒル魔をなだめにかかります。

「あのなぁ、今日は休みだろうが。帰ってこいと言ったり、出ていけといったり、何なんだ?」
「…………っうるさい!!」

こうなれば、奥の手です。

「おい、どうした?妖一。」
「わーーーーーーっ!!急に名前で呼ぶなァァァァ!!!もう絶対黙ってろ!!しゃべんなっ!!!もう寝るっ!!!!」

ヒル魔は名前で呼ばれるのを酷く嫌います。
名前で呼んだときには必ず布団を頭から被ってふて寝を決め込むのです。
それがヒル魔の照れ隠しだという事くらいは、隠しきれていない朱に染まる尖った耳を見ているので、鈍感なムサシさんでもわかるのでした。
ムサシさんがもう少しだけ鈍感で無かったならば、なぜヒル魔がヒゲ如きで、こんなにも駄々をこねるのかもわかるのですが、それはまだまだ先の関係にならないと無理のようです。

「あっ、そうだ。おい、ヒル魔?」
「しゃべんなって言っただろうが!!」
「ごちそうさまでした。」
「っ!!ふざけんなッ!!何言い出すんだこの糞ボケっ!!」
「勘違いすんなよ。お前がきちんと飯も食えっつったんだろうが。だから昨日した後に腹が減ったから食った。うまかったぞ。って蹴るなよ!!」

今度は無言でヒル魔がムサシを蹴ります。
その蹴りも布団の中からのものなので痛くも痒くもありませんが、きっとその中では真っ赤になったヒル魔が困ったようなはにかんだような表情でいるのだと想像すると今度こそ、もよおしてくる困ったムサシさんでした。

「なぁ、今からまた犯っても良いか?」
「っふざけんなぁぁぁぁぁ!!!!自分が昨日何したか思い出してしゃべりやがれ!!」
「………だよなぁ。」

少ししんみりとするムサシさんに言いすぎたかなと焦るヒル魔でした。 

「……………今度に、しろっ。」

そしてまたもや墓穴を掘ったようです。
その言葉を今後ムサシさんがどう利用するかは今のヒル魔にはまだ想像もつきません。
今はムサシさんを置き去りにして、失った体力を取り戻そうと襲ってくる睡魔に身を委ね始めるヒル魔さんでした。