雨の音と身に纏わり付く重苦しい湿気が、ムサシの二日酔いを悪化させていた。
疼くこめかみを押さえながら自分がどこにいるのかと辺りを見回してみる。
ここはよく知っている部屋なのに、いつもなら隣にあるはずのものが無いから、ひとつ足りないものがあるだけで知らない部屋になってしまう。
捜しに行きたくて起き上がろうとするけれど、頭痛と吐き気に襲われてうまく動けない。
ムサシが低く唸り声をあげていると、捜し物が自らやってきてくれた。
「ようやくお目覚めか?」
「ヒル魔.........アッタマ痛ぇ......気持ち悪.........」
「............情けねえな」
ヒル魔の態度がやけに不機嫌で、それが今のムサシには気に入らなかった。
「俺、なんでここにいるんだ?」
「.........居たくなきゃ出ていけ、酒臭くてこっちまで気分が悪くなる」
案の定、昨日の記憶などかけらも残っていない様子のムサシに、ヒル魔は必要以上に冷たい態度で突き放す。
ただでさえムサシは、二日酔いのためにイラついていて余裕が無い。
昨日ヒル魔との間になにかあったのかと、気を回せるはずもなかった。
「そんなにカリカリする位なら、初めから部屋に入れるなっ、バカヤロウ」
「.........っ!」
ムサシの方から呼び付けておきながらなんて言い草かと、ヒル魔は怒鳴り付けてしまいたかった。
しかしそうすると、昨日の成り行きも全て話してしまわなければならなくなる。
そんなことになったら、せっかく隠し通した本心もさらけ出されてしまうかもしれない。
ムサシの気持ちがわからない今、ヒル魔の気持ちだけが暴かれてしまうのはどうしても避けたかった。
「...............」
ヒル魔は無言のまま、水の入ったペットボトルと二日酔いの薬を、ムサシに向かって乱暴に投げて寄越した。
「危ないなっ!.........っオイ、どこ行くんだ?」
「うるせぇっ、酒臭くてたまらねぇ」
ヒル魔は怒鳴り出したくなる頭を冷やしたくて、バスルームへ向かった。
「何怒っているんだ?わけがわからん」
酒に酔って、ヒル魔のもとに転がり込むなんて事は、別に初めてではなかった。
頻回ではないにしろ、こうして薬を置いておく位にはあったはずだ。
確かにいつも酔って転がり込んだ翌日は、ヒル魔の機嫌はあまり良くない。
それにしても今日は、ヒル魔の機嫌も二日酔いの程度も、特別に最悪だった。
ムサシはやけに渇く喉に、大量の水で薬を無理矢理に流し込んだ。
そうしてまた目を閉じると、うっとおしい雨音に交じってシャワーを使う水音がムサシの耳に届いてきた。
ムサシはなぜだか急に、自分の汗臭さや酒の残り香が気になり出して、シャワー音が消えたのを確かめてから重い身体を引きずるようにシャワールームへと向かった。
「ヒル魔、もう出るんだろ?俺も風呂借りるぞ」
「...............勝手にしやがれ」
ガラス一枚隔てた向こう側から、くぐもった返事が返ってくる。
ヒル魔が出てくるのも待たずに、ムサシは服を脱いで浴室へと入って行った。
「この糞ジジイが。人が出るまで待てねぇのかよっ!」
「今更だろ」
「...チッ」
ヒル魔は舌打ちして、ムサシから差し出されたタオルを引ったくるように受け取った。
そして出ていこうとしたその瞬間、いきなりムサシが乱暴にヒル魔の腕を掴んでくる。
「なんだよ、風呂も一人で入れねぇのか?」
「..................俺の知らない痕がついてる」
「はぁ?」
いきなりムサシが何を言い出したのかヒル魔にはさっぱりわからなかった。
「ここ」
ムサシが指差した場所に目を向けて、ヒル魔の顔が一気に赤らむ。
内股を中心に散らされた紅い痕が、日に当たらない白い肌を鮮やかに彩って昨日の行為を物語っていた。
「浮気か?」
「っ!?」
バシンッ
ヒル魔はムサシの横っ面を思い切り張り上げた。
「黙りやがれっ、糞っ!!本気でもねぇ奴に何でそんなこと言われなきゃなんねぇんだよっ!!」
「......こっちが遊びってわけか」
「......テメェだってそうだろうがっ!!」
ヒル魔の言葉にムサシの表情が冷たさを帯びてくる。
「相手は誰だ?」
「.........テメェの知らねえ男だよっ、ケケッ」
この痕をつけた男はムサシだけれども、今のムサシにその記憶は無いから、ヒル魔の嘘はあながち嘘といえない。
そしてヒル魔はわざといやらしくムサシを嘲笑ってみせる。
ムサシの手に力が込められ、ヒル魔は痛みに眉をひそめた。
「っつ、いい加減離しやがれっ!!それともここで犯ろうってのかよっ」
「ああ、それもいいな」
「ぐっ......ぅ!」
ムサシはヒル魔の喉元を捕まえて、壁に押し付けながら空いた手をヒル魔の足の間へと差し入れてくる。
ヒル魔は抵抗しようにも、上手く呼吸が出来ずに頭が混乱する。
立ったまま、ヒル魔は片足を浴槽の縁に上げさせられて、昨晩ムサシに散々弄られた場所を晒す。
「なんだ?盛りあがって簡単に口を開けてくるぞ」
「......!」
夜のうちに自分で処理したとはいえ、中途半端に捨てられたヒル魔の身体は今もムサシの指を迎え入れようと物欲しそうに続きをねだる。
「昨日の男は満足させてくれなかったのか?」
「...うるっ......せ.........っ!?」
ムサシの指が2本同時に突き立つられ、中で拡げられていく。
その乱暴な動きさえ、すでに火の灯ったヒル魔の身体は快感しか感じられなかった。
ムサシの嘲笑が浴室中に響いてヒル魔の鼓膜を犯していく。
「中、ヌルついてるぞ。昨日の残りか?」
「離っせ......ふっぅ...」
「汚いな」
「......? あっ......やっめ...」
ムサシはヒル魔の身体から力が抜けていくまで、内壁の弱い部分を指で責めていく。
ヒル魔は足が震え、ムサシに掴まっていなければ立っていられなくなった。
頃合いを見計らって、ムサシがさらに近づき、身体を使ってヒル魔を壁に固定するように押し付ける。
「...なっ...に?...やっ、ぃやぁあ!?」
ヒル魔の身体に突き立てられたのは、ムサシの指でも太い肉棒でもなく、角ばった薄く固い無機質な小さめなのシャワーノズルだった。
「抜けっ!!...やだっ、抜っ.........」
「言っただろ、汚いって。綺麗にしないと突っ込む気になれねえ」
ムサシの二日酔いによる吐き気はいつの間にか消え、代わりにヒル魔に対する嗜虐心が身の内を支配していく。
自分以外の誰かが触れた部分全てを洗い流して、もう一度穢し直さなければ気が済まなくなっていた。
ムサシの手がシャワーレバーに伸びていくのを止めさせようと、ヒル魔は悲壮な顔で懇願する。
「ムサシッ...やめて、くれ......嫌だっ!やっ......ひあっ...ああっ!?」
ヒル魔の悲鳴にムサシは何の反応も返さずレバーを捻っていく。
体内に勢いよく湯が注ぎ込まれて、強い水圧が内壁を押し上げていく。
「ヒアッ...アッ......カハッ......」
ヒル魔はのけ反り、白い喉を晒して喘ぐしかできないでいた。
その目は見開かれたまま何も映さずに、ただ涙を溢れさせている。
こんなに近くにいるのに、視界の端にすら映らない事にムサシは腹を立てて、さらに乱暴にヒル魔をえぐりたてる。
そのたびにヒル魔の身体が跳ね上がり、息を詰めて涙を流す。
「も......や......ひぅっ」
ムサシから与えられる快楽の酷さに堪え切れず、ヒル魔は達してムサシの腹を汚していく。
まだシャワーノズルに犯されたまま、ヒル魔の足は痙攣して役に立たなくなった。
ヒル魔の背中が壁を伝い落ちていくから、ムサシは内股の間に足を差し込んで身体を支える。
「こんなのでもいいか。たいした身体だな。」
「...ゥア......も...抜い、て」
ノズルの動きこそ止まったものの、体内に流し込まれ続ける湯量と水圧が、ヒル魔の身体を苦しめていた。
「ヒッ...くはっ」
ムサシの手に力が込められ、ようやくノズルが抜かれると思ったヒル魔は次の瞬間また悲鳴をあげた。
ムサシはノズルを抜くのではなく、横に引いてヒル魔の入口を拡げていく。
拡げられてできた隙間からは、体内に留められていた湯が流れ出していく。
その感覚にヒル魔はまた身を震わせる。
ムサシはその姿を楽しみながら、湯の溢れる隙間から自らの肉棒を捩込んでいく。
「っひぐぅ......あっ...ぁ」
ノズルを入れたままヒル魔の体内深くにムサシのモノを突き入れるには狭すぎて、ムサシは仕方なくノズルを引き抜いていった。
「...やっ...ぁ......ぅっく......は...ぁ」
ようやくムサシだけを身体の内に包み込めた事に、ヒル魔は安堵する。
ヒル魔の息が整うのも待たずにムサシが腰を使い出す。
「やっ!......あっ......やめ......あっ...はっ.........」
「......凄いな、女みたいにグプグプいっていやがる」
「...言うっ......なぁ...」
ムサシが言うとおり、抜き差しするたびにグプグプと音を立てながら、内に残った湯が溢れてヒル魔の足を流れ落ちる。
「うあっ...あっ」
ムサシは動きを止めずにヒル魔を追い立てていく。
わざとヒル魔の弱い部分ばかりを突いて、内壁を収縮させていく。
「......あっ...もぅ......ム...サシ......っ!!...」
「.........うっ...ふぅ」
悲鳴にも似た嬌声を上げて、ヒル魔がまた達して内壁を強く痙攣させる。
きゅうっときつく包み込まれ、湯の代わりとばかりに、ムサシはヒル魔に欲望を流し込んだ。
「はっ...はぁ、は、......もう、抜けよ。気は済んだだろうが、糞ジジイ」
「......お前はどうなんだ?」
「犯り飽きた。......っな......テメェ、なにでかくしてやがるっ!」
「俺はまだ足りない。」
新たな圧迫感に、ヒル魔は背中をのけ反らせてもがいてみたが、逃げられずにまた深くムサシを受け入れる。
「昨日の相手は楽しませてくれなかったのか?随分と締め付けてくる。」
「.........っく、さぁな。テメェより…は丁寧だったがな。それよか......本気でやめてもらいてぇんだがな。」
「まだだ。」
「もう無理だっ!」
「まだいけるだろ?それだけ抵抗出来るんだからな」
「ふざけっ!...んあっ......あっ...ふぁっ......やっ...は!」
敏感になりすぎた身体のせいで、ヒル魔の口はまた言葉を紡げなくなっていった。
そうして、ムサシに揺すぶられながら、喘ぎ声すら途切れてヒル魔の頑なな意識が薄らいでいく。
「ヒル魔?」
「...んっ、......は......ぁ」
「昨日の相手は誰だ?」
「...............う......っ!?」
ムサシの問いに答える事なく、ヒル魔は意識を手放した。
それでもまだムサシは腰を動かして、ようやく自分の終わりを向かえる。
ゆっくりとヒル魔の中からムサシが抜き出すと、ムサシの残滓が溢れてタイルに落ちていった。
「オレは結構本気のつもりなんだがな、お前は違うのか?」
そういって、ムサシは意識の無いヒル魔の頭をそっと撫でてため息をつく。
ヒル魔は意識のないままに夢の中でムサシの言葉を聞きながら、それが本当ならばどんなに幸せなのだろうと寂しそうに笑った。
「人の気も知らないで幸せそうに笑いやがって、...このバカヤロウ」
そして次に目を覚ました時にはムサシの言葉など無意識の奥底へと押しやられて、また同じ日々が繰り返されていく。
終