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沢田綱吉はザンザスへの恋心を自覚した瞬間から、真っ直ぐにザンザスに向かってくるようになった。
それはとても強引で無理矢理で形振りをかまっていない。
みかねた家光が以前にその理由を尋ねたとき、綱吉は困ったように笑いながら答えた。
「だってザンザスは『好き』を理解できないから」
その言葉は綱吉の知らない昔のザンザスを知る家光には充分な答えだった。
家光も昔は息子と同じようにザンザスに愛される事を知ってほしいと願った事があった。
しかし家光にとっての一番はザンザスではなく、なにものにも代えがたい人がすでに存在していた。
誰かのついでに与えられるような愛情では心の枯渇した幼いザンザスには到底足りなかった。
それはザンザスを引き取ったボンゴレ\世の愛情も同じだった。
ボンゴレ\世はザンザスの父親である前にボンゴレ\世であり、幼い子供のよき父親役を演じるにはドン・ボンゴレの役が大きすぎた。
長い歴史と文明の先にある現代の人間は愛だけでは生きられないなどと言ってみたところで子供にそんな理由は通じるわけもなく、結局ザンザスは愛情を理解できないまま大人になった。
家光は自分たち親世代のふがいなさに溜め息をつきながら、それでも親らしい助言を綱吉に与える。
「別に息子たちの恋路を邪魔するつもりはないがな、あまり露骨な行動は止めておけ」
「なんで? 男同士だから……とか?」
「いや、ザンザスのためだ。 この意味がわからねぇようならお前の抱えている気持ちはすっぱりあきらめろ」
「……ッ!!」
父親が言わんとするところを綱吉は直感的に察して言葉に詰まった。
ザンザスは表面上、弱みなど無くとても強い。
その強さは過去に一度ザンザスを負かした事のある綱吉であっても、次に戦ったとしてまた勝てるかどうかわからないほどだった。
しかしザンザスの強さはとても脆い。
ザンザスにとっては強さが全てであり、少しでもその強さが揺らぐ事があればきっとそこでザンザスは終わってしまう。
本当のところ、ザンザスには弱みがないのではなく弱みを作る余裕がない。
強さの上にしか己の居場所を作ってこられなかったザンザスを想うとき、綱吉の表情はわずかにくもる。
「オレはザンザスの弱みにはならないよ、そのためにオレも強くなってるんだし」
「……やっぱり止めとけ」
「なんでっ!!」
「お前がどれだけ強くったって、お前に追っかけられるとザンザスの弱みができちまうんだよ」
「世間体ってこと? マフィアが世間体を気にするなんて可笑しな話だよねっ!!」
「マフィアだから世間体を気にするんだろうがっ!! ここは生き馬の目を抜くような世界だぞ、どんな些細なことだって命取りにできるんだ」
家光の鋭い言葉に綱吉は再び口をつぐんだ。
綱吉がザンザスに愛情を示せば示すほど、周囲はそれを醜聞としてザンザスに嘲りの眼を向ける。
ザンザスがそんな侮辱を許すわけも無く、きっとザンザスの周りはあっという間に血に染まりザンザスの身にも危険が及びかねない。
怒りの矛先はもちろん原因を作った綱吉本人にも向けられるから、ザンザスが3度目の反乱を起こす事は想像に難くない。
そうなってしまえばいくら綱吉がドン・ボンゴレの椅子に座していても、今度こそザンザスを守りきれなくなってしまう。
「今までのお前の行動はボンゴレの10代目としてヴァリアーのボスでもあるザンザスとの友好を深めるためのものだったって事でいいな」
「…………それがザンザスの為だって言うのなら表向きはそれでもいいけど、だけどオレは絶対あきらめないから」
「綱吉ぃ、いいかげんに10代目の自覚を持て。 ザンザスの立場も考えろ」
「考えてるよ、でも考えてるのはザンザスの立場じゃなくてザンザスが幸せに笑える方法だからねっ!!」
「おいっ!! 綱吉っ!!」
家光が止める前に綱吉は部屋を勢い良く飛び出した。
身体ばかりが大きく育った我が子の心はいまだに未熟でマフィアの世界で生きていくにはまだまだ青臭い。
周囲が頭を抱えるようなその真っ直ぐさが年を老いつつある家光には眩しくうつる。
「ったく、余計なとこばっかり似ちまうんだから、困ったもんだなぁ」
一人残された家光の口からつぶやくような言葉がこぼれる。
親ができなかった事を子供たちが引き継いでいくような気がしていた。
それは同時に自分たちの時代がすでに過去の遺物のひとつへと様変わりすることに気づく瞬間でもあった。
走り去った息子の背中を目に焼き付けた家光のまなざしは先ほどまでの厳しい言葉とは裏腹に、少しうれしそうに笑っていた。
continua a 『Io insegno amore U』