ドッペルゲンガー 4

<影絵四枚目>

深夜のベンチでまだ足に力の入らないヒル魔をまたぐらに抱えこんで、少し苛め過ぎたかと思いながらも反省する気の全く無いタケクラであった。

「何が優しくだっ。この、糞エロホストっ!!」
「だからー、ホストじゃねぇって。」
「…………知ってる。…………ホントは大工か何かなんだろ?」
「…………!?」

ヒル魔がムサシの事を言っているのだという事はすぐにわかった。
しかし、ムサシに会わせたのは今日が初めてのはずなのに、一体どこでそんな情報を仕入れてくるのやらと少しいぶかしむタケクラに、ヒル魔はあっさり種明かしをする。

「今日、お前の部屋出ていってから何となくぶらついてたら偶然見つけた。でもあんな態度とられた後だったから、声掛けずに帰ってきた。」
「ふーん。」

そう言ってすねるヒル魔を抱き寄せてタケクラは何事かを考える。

「なぁ、ヒル魔。今からお前の部屋行っていいか?」
「こんな時間からか?めずらしいな。………良い…けど、もう今日は変な事すんなよ?身体がもたねぇ。」
「んー、そりゃ残念だけど、正直こっちも持ちそうに無いな、わかった。」

タケクラは真っ暗闇から少しづつ白み始める空の端を眺めながら、自分の時間がそろそろ終わる事を感じる。
じゃぁ、いくかとよろけるヒル魔を支えながらタケクラが歩き出す。

着いた先は見なれた殺風景な部屋。
ヒル魔にはどうも生活感といったものが全く感じられなくて、そこもタケクラのお気に入りの一つであった。
帰るとすぐに2人は軽くシャワーを浴びて裸で寝転ぶ。
タケクラは約束通り大人しく横になり、ヒル魔はというと、何故か落ち着かない様子で困ったように視線をさまよわせている。

「?……どうした、ヒル魔。」
「………だって、お前が泊まるの初めてだから、なんか変な感じで…………」
「あぁ、そうだっけ?」

タケクラはさらりと嘯く。
そんなタケクラの様子に、自分ではない誰かと思い違いでもしているに違いないと気分が沈みこむヒル魔であった。

「誰のとこに泊まった話してんだよ。この糞コマシっ!今朝の態度だってなんだあれはっ!!………人がどれだけっ……」

ヒル魔の抗議を押さえ込むようにタケクラは優しく唇を合わせるだけのキスをする。

「わりぃ、眠くてもう限界だ。その話は起きてから俺に聞いてく…れ………」

あまりの寝つきの良さに思わず声を無くしたヒル魔であった。
無理矢理起こしてやろうかとも思ったが、その寝顔を見ていると何となくそれも出来ず、そっと頭を撫でてやる。
ふと外に目をやると辺りは少しづつ明るくなり、朝が近い事をヒル魔に教えてくる。
もう少し相手の寝顔を見ていてやろうかと目を移した瞬間、頭を撫でていた手首を掴まれ乱暴に押し倒される。

「うわっ!!………嘘寝かよっ、糞ッ」
「何でまたお前がいるんだっ!!」
「…………っ」

ヒル魔を見る男の目が、昨日と同じように冷たくて、寝ぼけるのもいいかげんにしろと叫びかけた言葉がのどに引っかかって出てこない。
何かがおかしい事は昨日から何となく感じていたが、気付かない振りをしていた。
しかし、それももう出来ないと肌で感じるヒル魔をよそに、知っている顔の知らない男が辺りを見まわす。

「…………ここ、どこだ?」
「……何言って…タケクラ?俺の部屋だろう、さっき一緒に入ってきたじゃねぇか!」
「またあいつの仕業か。」

男の顔が不機嫌さを増していく。
組み敷かれたヒル魔は不安に襲われながらもう一度名前を呼ぶ。

「どうしたんだ、タケクラ!」
「タケクラじゃねぇっ!!」
「なっ………に?何言って……っ!?」

バシッ!!

ヒル魔はいきなり頬を叩かれて頭の中が真っ白になる。

「覚えておけっ!!俺はタケクラじゃねぇ。ムサシだっ、ムサシ!!お前の好きなタケクラは今はいねぇんだよっ!!」
「っ……何?………タケッ…」

訳がわからずまた名前を呼ぼうとするヒル魔に、ムサシは舌打ちして乱暴にヒル魔の身体をまさぐりだす。

「やっ………痛っぅ………」
「お前の知ってる男はこんな扱い方するかっ?暴れたきゃ暴れろ!!」

キスマークなどという生易しいものではなく、ヒル魔の薄い肉を食いちぎりそうな勢いで、咽喉元から下へ赤く歯形をつけていく。
タケクラとの情事で体力のほとんどを使い果たした今のヒル魔には、抵抗しようにもどうにも身動きが取れず、その事に更にイラついたムサシが無理矢理ヒル魔の中に自分を捩じ込んでくる。

「っやぁぁッ!!……痛っ………やめっ……くぅう……」
「ふん、ホントに痛いか?お前の中、精液でぬるぬるじゃねぇかっ!!ほらっ、グチグチ音まで鳴らしてやがる!!」
「いっ…やぁ……抜っけ、よぉ………おまっ……タケクラっ、じゃな…?……んあぁっ……!!」

ヒル魔がどんなに快楽を感じないようにと努力しても、先ほどまでタケクラによって開かれていた身体が疼いて仕方が無い。
しかも今自分を犯し傷つけるこの男の身体は紛れもなくタケクラで、ヒル魔はどんどんと追い詰められていく。

「…っ…二度とっ……俺のことをその名前で呼ぶんじゃねぇ!!」
「っ…………」

訳もわからないまま酷い扱いを受けているというのに不安と混乱はあっても何故だか怒りは沸いてこない。
意識を手放しかけるヒル魔の耳に、遠く微かに声が聞こえる。
まるで泣いているかのようなその声はとても悲しくて胸を締めつけられる。
泣くなよと手を伸ばして頭を撫でてやりたいが、身体が言う事を聞かず動けない。
次に目が覚めた時に目の前にいるのはタケクラとムサシ一体どちらなのだろうとぼんやり考える。
なぜだかわからないが、何となくムサシであって欲しいと思うのは、タケクラがムサシから話を聞けといったからなのか、それとも泣いているのがムサシだからなのか。

「………チクショウ…………」

意識を手放す直前、遠くのほうでまたムサシの声が聞こえた気がした。