ドッペルゲンガー 10

<影絵十枚目>

いざ目の前にタケクラを置いてみると、決心したはずの心が揺れてしまう。
たぶんこのまま縋りついたなら、タケクラは何も無かったかのようにヒル魔を抱いてくれるのだろう。
しかし、それではまた同じ事の繰り返しで、その度にきっと互いの溝は深くなり修復不可能になるのは目に見えているからヒル魔は自分を押し殺す。
どうしてもタケクラに伝えなくてはいけない事があるからと腹をくくって漸く声に出す。

「俺、………一旦終りにしようと思う。」
「…………そうか……………」

ヒル魔から切り出されたいきなりの別れ話に、タケクラは慣れた事だと短く答える。

「やっぱりダメだったか、今度こそはと思ったんだけどな。」
「タケクラ?」
「じゃぁ、そういう事でっ!!ブフッ……って??」

タケクラに向かっていきなりクッションが投げつけられる。なんでそんな事をと、問いただす前にヒル魔に怒鳴られた。

「人の話はきちんと最後まで聞けっ!!」
「だからヒル魔は別れたいんだろ?」
「そうじゃなくてッ……今このまま付き合っても何も変わらないから。一度別れて、それでムサシとタケクラが俺の事本当に好きならそっちから迎えに来やがれッ!!」
「………は?」

タケクラは訳もわからずヒル魔を見つめる。

「別に、付き合いなおしたいのなら俺は今すぐ出も構わんが?なんでそこでムサシが出てくる?」
「だーかーらっ!!それじゃ意味ねぇだろが………お前ら二人は結局一人なんだよ。俺の中にだって譲り合えない正反対の気持ちはいつでもあるしな。たとえば、別れたくないけど別れたいとか?お前の場合はそれが極端なだけなんだ。そう思う事にした!」
「思う事にしたって、ヒル魔……俺らは別人だぞ?」
「俺には一緒なの!!何だよ、ムサシみたいな格好してるくせに突っぱねんなよ。」
「……………。」

タケクラが無言で何かを考え出すから、自分の方法は間違えているのかとヒル魔は不安になる。
タケクラとムサシが今の所同一人物でない事は確かなのだが、きっと重なる部分はあるはずだと思った。
だから、自分への好意が二人に同じようにあるのならそこから交じり合っていく事はないのだろうかと考えた。
ヒル魔は自分にだって相容れない事はたくさんあるのだから、二人が一部分でも共有できる想いがあるのであれば、完全に一つにならなくてもいいと思った。
そんなヒル魔の思惑にタケクラが気付いてくれたかどうかはヒル魔にはわからなかった。

「たぶん、ムサシもお前の事は好きだと思うぞ?だから無理に別れなくても……」
「しつこいっ!!タケクラはムサシの気持ちなんてわからないんだろ!!俺のこと好きならどうにかしてムサシと話つけてからこいよ。」

まだなにか言いたげなタケクラを押しとどめてヒル魔は立ち上がる。
その手を掴んでタケクラがヒル魔を引き寄せた。

「迎えに行けばいいのか?」
「二人でだぞ………ただしっ!!あんまり待たすと知らないからな!!俺、結構もてるから……」
「じゃ、ムサシにも伝わるくらいのキスして?」
「っ!!」

甘くねだるタケクラの姿にヒル魔の恋心が疼き出す。
ヒル魔は少し戸惑い考えてから、その疼きを伝えるようにタケクラに唇を落とす。

「………んっ………ふぅ………」

長く深い恋人同士のキスをして、名残を惜しみながらヒル魔はタケクラから離れる。

「ムサシにも明日俺から伝える。まぁムサシが話を聞いてくれたらだけどな。」
「二人ではヒル魔を迎えに行けないかもよ?」
「タケクラ一人だったら相手にしてやらないからな。」
「エッチはそれまでお預けか?」
「ふざけんなっ、相変わらずの糞エロジジイ!!」

ヒル魔はじゃあなと無理に笑って部屋を出ていった。
ヒル魔と次に逢うときにはムサシに変わっっているはずだから、少しでも愛想良くしてくれとタケクラは自分の中で眠るムサシに願った。