下町人情-華・恋・吹雪- 3

『三輪挿 〜華蕾む〜』

「なんで閉めてたんだよっ!!」
「……………………。」

翌日、ヒル魔はムサシからの執拗な文句にわざと一言も返さないでいた。
何でと聞かれて答えられるくらいならたぶん閉めていなかったとヒル魔は感じていたが、うまく説明できなくてその日一日中だんまりを通してみた。
そんなヒル魔の態度などいつもの事とムサシは腹をくくってまた花屋へと入り浸り始めた。

「なぁー、ヒル魔?」
「目上の人間に呼び捨てとはいい度胸だな。様つけて呼べ、生意気な。」
「えぇー、嫌だ。」
「出て行くか?」
「っヒル魔様!」
「よし。」

ムサシはこんな会話をして楽しそうに笑うヒル魔を見るのが大好きだった。
日数を重ねるごとにヒル魔の態度は柔らかくなり、ムサシのことを弟分として扱うようになっていった。
ムサシはヒル魔が相手してくれるようになったことは嬉しかったが、その扱いが明らかに自分の求めるものと違っていることに不満を感じていた。

「なぁ、あの花元気?ヒル魔にあげたやつ。」
「山百合か?元気だぞ。」
「あれって山百合ってのかぁ。」

知らずに持ってきたのかとあきれるヒル魔にムサシが二へへと笑う。

「なんか、白と黄色でヒル魔みたいな感じがしてさ。」
「おい、糞ガキ。俺は野草か?」
「綺麗なところもそっくり。」

ガンッ

「ってぇ、そういう乱暴なところが野生なんだよっ!!」

時折ムサシがヒル魔に近づこうとするとこうして上手にシャットダウンされてしまう。
ヒル魔はずるいとムサシは思う。
ムサシは危険だとヒル魔は思う。
いきなり不意をついて距離をつめるムサシをかわすだけで精一杯のヒル魔であった。

「………ヒル魔、いつになったら信じてくれんの?俺あんたのこと好きだってずっと言ってるだろ?」
「うるさい。気のせいだ、一時の気の迷いだ。好きになるなら学校の女にしろ。ガキにはガキがお似合いだ。」

ムサシが急に真面目に迫ってくるからヒル魔はいつも以上に冷たく冷静にあしらおうとする。
こういう場合はしつこく食い下がってもヒル魔の機嫌を損ねるだけだと学習していても、思春期の恋には引き下がれないときもある。

「ガキ扱いすんなよっ!!これでも学校ではもてるほうだぜ?女と付き合ったことだってある!!」
「じゃあ、もう少しおままごとみたいな恋してろっ。」
「ヒル魔っ!!」

ムサシが立ち上がろうとしたとき、店の電話が鳴ってヒル魔はその場を離れた。
ムサシは行き場のない身体と気持ちに頭をガリガリと掻いて誤魔化してみる

「そういや最近電話多いな。仕事忙しいのか?」

店の奥から少しイラついたようなヒル魔の話し声が聞こえてくる。
電話の内容は声を潜められているせいでムサシにはまったく聞こえないでいた。

「なんだ、トラブルか?」
「なんでもねぇ。ほら、ムサシそろそろ時間だろ。帰って手伝い行け。」
「………困ったことあったら何でも言えよっ!!」
「誰が言うかっ、お前みたいな糞ガキに頼るほど落ちぶれちゃいねぇよ。」

ヒル魔の言葉は荒くてもその顔には笑みがあったのでムサシは仕方なく店を後にした。
ムサシが帰ったのを確認してヒル魔はため息とともに呟いた。

「お前にどうにかできるような話じゃないんだよ………糞っ。」

奥でまた電話の鳴る音がする。
ヒル魔は耳を塞いで一秒でも早く電話が鳴り止むことを祈った。



夕方、ムサシが花屋を訪れたとき目に飛び込んだのは、散乱した花々の中で床に座り込むヒル魔と見たことのない男の姿だった。

「ヒル魔っ!!」
「来るんじゃねぇっ!!この糞ガキっ!!」

思わず駆け寄ろうとするムサシをヒル魔はいつになく厳しい声で咎める。
ムサシは見知らぬ男を睨み付けて叫ぶ。

「てめぇっ!ヒル魔に何したっ!!」
「別に。自分で勝手にこけたから起こしてやろうとしてただけだぜ?」
「やめろっ、ムサシ……。こいつの言うとおりだ。阿含もガキなんか相手にすんな。」

阿含と呼ばれた男は薄笑いを浮かべながらヒル魔とムサシを交互に観察している。

「へぇ、お前こんなガキにまで手ぇ出してんのか?」
「…………こいつはそんなんじゃない。」
「ヒル魔っ!!誰なんだよ、こいつ!!」

ムサシの声に阿含が反応して近寄ろうとする。

「口の利き方しらねぇガキだな。」
「阿含っ!!」

ヒル魔はすばやく起き上がって阿含の前に立ちふさがり、ムサシに聞こえないように小さな声で阿含に囁く。

「こいつは関係ない。何でもお前の言うとおりにするから頼む。」

ヒル魔の言葉に阿含が口端だけで笑う。

「命拾いしたな、ガキ。」
「なんだとっ!てめっ……」
「ムサシッ!!いいから今日はもう帰れ。仕事の邪魔だ。」
「なんでっ?ヒル魔!!」

ムサシはヒル魔に無理やり外へと押し出される。

「ヒル魔っ、何なんだよアイツ!!何されてんだ?」
「………何もされてねぇ。頼むから帰ってくれ、大事な仕事なんだ。」
「だって、なんかおかしぃっ」
「ムサシっっ!!…………本気で邪魔だ。」
「っ!?………ヒル魔の馬鹿っ!!」

ヒル魔の態度にムサシは怒って背中を向けた。
そしてそのまま走っていく後姿を見つめてヒル魔はほっと息をつく。
背後では阿含の笑い声が聞こえていた。
ヒル魔はムサシが見えなくなるとドアを閉めブラインドも下ろして外界とのつながりを断ち切った。

ガシャンと何かが落ちる音がしてヒル魔が振り向くと、作業台の上のものをすべて払い落とした阿含がニヤニヤと笑っていた。

「あのガキとはもう犯ったのか?」
「………だからそんなんじゃねぇっつってんだろうが。お前のほうこそ何しにきやがった?」
「お前とすることなんてナニに決まってんだろうが。」

ゲラゲラと笑う阿含を無視して、ヒル魔は床の片づけをしようと身をかがめた。

「いっ……ツゥ………」
「何シカトかましてんだ?」

ヒル魔は阿含に髪を?まれ、そのまま顔を作業台へと押し付けられる。

「いまさら何の用があるってんだよ!!お前の方からいなくなったんだろうがっ!!」
「だからぁ、犯る以外の用なんてあったことなかっただろうが?」
「ふっざけんなっ!!離せっこの糞ドレッド!!っ痛ぇ………」

阿含に無理やり頭をあげさせられてヒル魔の顔が苦痛に歪む。
その耳元で阿含はヒル魔にゆっくりと最悪の言葉を流し込む。

「お前が相手するつもりないんなら、あのガキに相手させてもいいんだぞ?」
「なっ!!」
「まぁ趣味じゃないから犯りはしないけど、サンドバッグくらいにはなるだろうな。」
「…………っこの糞野郎っ!!」

ヒル魔は歯噛みしながら阿含を睨みつける。
たったそれだけの反抗が今のヒル魔には精一杯であった。
この男は今言ったことを本気でやると分かっているのでこれ以上の反抗はムサシに危険が及びかねず、諦めた。
阿含はそうしてムサシを人質にとり、身動きの取れなくなったヒル魔をゆっくりと籠絡していく。

「阿含っ!!………やめっ……」

ヒル魔の服を乱暴にはだけながら首筋に噛み付いてくる阿含の行為に思わず息が詰まる。

「いつも嫌がっているけど、本当は気持ちいいんだろう?体の相性は抜群だしな。」
「っうるさ……あっ…」
「ほら、な?」

阿含に胸をまさぐられその小さな突起を摘ままれて、嫌だと思うのに痺れが背筋を伝って足の力を抜いていく。

「……やぁっ!」
「こんなにしてんのに?」
「ひっ……」

阿含はヒル魔の股間に手を入れて、まだ立ち上がりかけたばかりのヒル魔自身を引きずり出す。
そして慣れた手つきで扱いていくからヒル魔は堪らず声を上げる。

「やっ!!……あっ………んんっう……」

すべて教え込まれたこの手に逆らう術などなくてヒル魔は簡単に抵抗をやめる。
後は今までそうしてきたように従順になって、ただ阿含が飽きるまで自分の体で遊ばせておくことしかできないでいた。

「んあっ……あっ…はっ…くぁっ………」

阿含に激しく揺さぶられながら、ヒル魔は与えられ慣れた快楽に溺れる中でうっすらと瞳を開く。
その目に映る無残に散らばった花の残骸がひどくヒル魔の現実感を薄れさせていった。