通信販売恋慕情 5

メロディ:5 ♪誰よりもあたしだけ 1番にして♪
       ♪心の中にあたしだけ 映して♪
 

生人形のヒル魔がムサシさんのところに来て、はや一ヶ月が過ぎようとしております。
初めこそはムサシさんも便利な抱き人形とばかりにヒル魔を苛め楽しんでおりましたが、最近様子がおかしいのです。
どうもよく一人で外出するようになっているのです。
仕事の帰りも遅いのです。
せっかくヒル魔が美味しい手料理を作っても食べてくれずに眠ってしまいます。
綺麗に整理された部屋にも、しみ一つ残さず洗われた洗濯物にも気がつかない様子です。
何よりも熊さんのようだった風貌が、今ではどこのホストかと毒づきたくなるような長髪に、剃り残しの無いつるっつるの顔まわりに、さすがのヒル魔も一抹の不安どころか生まれて初めての特盛りな不安にかきたてられます。

ムサシさんがヒル魔を抱かずに眠った1日目の夜、きっと疲れが溜まっているのだろうと眠るムサシさんの眉間のしわを伸ばして一人見つめるヒル魔でした。

(モウアキタノカナ?)

ムサシさんがヒル魔に触れずに出かけていった2日目の夜、多分やり残した仕事を思い出したのだろうと朝がくるまで眠らずに待っていたヒル魔でした。

(モシカシテスキナヒトデキタカナ?)

ムサシさんがヒル魔に声をかけずに仕事に出ていき帰らなかった3日目の夜、きっと遅刻しそうで慌てていたんだとうつむいて床とにらめっこしていたヒル魔でした。

(モウイラナイノカナ?)

ムサシさんがヒル魔と目を合わそうとしない4日目の夜、ヒル魔はムサシさんにフライパンを投げつけます。

ゴンッ!!

「ってぇなぁ!!何すんだよっこのやろう!!!」
「うるさいっ!?気にくわねぇ事があるならはっきり言えばいいだろうが!邪魔なら邪魔って言えばいいし、飽きたなら飽きたって言えよ!!こっちがイライラすんだろうがっ!!!」
「はぁ?」
「………っ!?もういいっ!!出ていくっ!!!今まで世話になったな!糞ジジイ!!」
「おいっ!ちょっ、待てよっ!!待てって!!!」

本気で出ていこうとするヒル魔をムサシさんが捕まえます。
ムサシさんはヒル魔の顔を覗き込もうとしますが上手くいきません。
仕方が無いので逃げないよう片方の手でヒル魔の細い手首を掴まえて、もう片方の手で無理やりヒル魔の顎をつかんで上を向かせたのです。

「っ!?おまっ……何泣いてんだよ?」
「………!!泣いてねぇ!離せっ糞ジジイ!!」

泣き顔を見られたのが恥ずかしいのか、泣いていたからなのかどちらかわかりませんが、ヒル魔の顔は耳まで真っ赤です。
特に目の回りは少し熟れたように赤く染まっていてとても可愛らしくてムサシさんは思わず欲情してしまいそうになります。
でもさすがにここでもよおしてしまうと本当に取り返しのつかないことになりそうなので、ムサシさんはぐっとこらえます。

(楽しみは後に取っておこう……。)

「いいか?落ち着いて話すぞ?」
「………話すことなんてあんのかよ?」
「何でいきなり出て行くなんだ?」
「っ!自分の胸に聞きやがれ!!」

ムサシさんにはさっぱりわかりません。
こういう所は本当にお馬鹿さんな男なのです。
でもこのままでは埒があかないので、ヒル魔が怒っている理由を知るために何か他に方法は無いかと思案します。
ふと、生人形の説明書にあったある一文を思い出します。
【生人形は本来命令された事に従うようプログラムされています。自我が芽生えどうしても言うことを聞かない時には命令してください。ただし、これは最後の手段ですので主従の信頼関係が壊れないようお使い下さい。】
ムサシさんは閃きました。きっと多分絶対ヒル魔は自分のことが好きなのです。
だからこの位の事では信頼関係なんて壊れたりしないに決まっています。
きっと今回は大丈夫なのです。
ムサシさんは自信満々に確信しているのです。
そういう所は本当に狡賢いおとこなのです。

「ヒル魔、何で出ていくんだ?答えろ、命令だ。」
「!?………卑怯者……。」

ヒル魔は悔しそうにムサシさんを睨みあげます。
でも命令に逆らえるわけも無く口を開かされるのでした。

「何で出ていくなんだ?」
「………お前が………オ…レのこと、……いらないみたいだから……」
「はぁ?何で?」
「帰ってこないし…顔合わさないし…メシ食わないし……別の奴と会ってるみたいだし……もう……4日、して…ないし」
「したかったのか?」
「っ違ッ!!してぇわけねぇだろ!!っうか反応すんのそこじゃねぇだろっ糞エロジジイ!!」

指の先まで真っ赤になったヒル魔が可愛くて、ムサシさんは最初の目的など忘れてもう少しだけ苛めてみようと思いました。

「きちんと帰って、お前の顔見て、メシ食って、SEXすればいいのか?」
「……!?SEX言うな!!そうじゃなくって……そうじゃなくって……」
「どうして欲しいんだ?はっきり大きな声で言ってみろ。これも命令。」
「………最低だ………」

小さく呟くヒル魔の声など聞こえない振りでムサシさんはヒル魔の本当の気持ちを告白させようという魂胆です。
ヒル魔は唇をかみ締めたまま汗だくになりながら低く唸っています。

「さぁ、言っちまえ、楽になるかもしれんぞ?」
「………アーーーーッ、もう!お前の1番になりたいんだよ!!お前が誰かのトコに行くのは嫌なんだよ!!!お前の中にいるのはオレだけでいいんだよ!!!!いつでもオレだけ見てろよっ!!!!!こんな恥ずかしいこと言わせるんじゃねぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

そう叫んで肺中の空気を空っぽにしたヒル魔は照れ隠しのように荒い息をして俯いてしまいました。
ヒル魔の告白にムサシさんはしたり顔です。
本当はヒル魔の気持ちなど、よくわかっているのです。
それでもどうしてもきちんとヒル魔の口から聞きたくて仕様が無かったのです。
ムサシさんが心の中で悩んでいたことなんてヒル魔には内緒です。
自分を受け入れてくれるのは仕事だからなんじゃないのかとか、本当は自分のことなんてなんとも思っていないんじゃないのかとか。
ヒル魔の告白を聞いた今も、雛鳥が初めてみたものを親と思いこむように、初めて触れたのが自分だから好きなのではないかと疑ってしまう心もヒル魔には内緒です。
そして例えヒル魔がムサシさんを嫌い出て行こうとも無理やりにでも捕まえておく決心をこの数日でしてしまっていたことも全部全部、狡賢いムサシさんは可愛くて可哀相なヒル魔には内緒にしておくのでした。